Archive for 3月 4th, 2011

英語語彙の学習(6)

Author: 土屋澄男

派生語を基本語とひとまとめにして1語にする数え方を「ヘッドワード方式」と呼ぶことにします。ここで「ヘッドワード」とは、語の主要部の意味です。派生語は主要部に接辞(接頭辞・接尾辞)が付いたものです。接辞には多くの種類がありますが、これまでに例に挙げたものでは、接頭辞としてはun-、接尾辞としては –er, -ful, -less, -ly, -nessなどです。派生語を作るこのような接辞の知識を持っていれば、さまざまな派生語をヘッドワードのもとに1つにまとめることができるわけです。こうして、基本1000語を学習するときに派生語も一緒に覚えれば、さほど記憶に負担をかけずに(つまり記憶に要するエネルギーを節約して)、1語を2語、3語、4語と増やすことができるわけです。場合によっては1語が6語以上にもなります。

 ところで、英語のネイティブ・スピーカーがテキストの新語数を数えるときには、この「ヘッドワード方式」でカウントするのが普通のようです。外国で出版され、日本で副読本として使用されている多読用テキストの多くも、実はそうなのです。ですから外国で出版された1000語レベルのテキストはかなり難しく感じます。日本の中学生や高校生は(そして多くの先生方も)、語のカウントが教科書と同じ「指導要領方式」だと考えていますから、1000語レベルのテキストなら簡単に読めると思っています。ところが実際はまったく歯が立たないのです。このことは、望月正道ほか著『英語語彙の指導マニュアル』の「表3‐1中学校英語教科書の語彙によるレベル別多読用教材のカバー率」(17頁)を見ると、なるほどと納得できます。望月氏らが調べた多読用教材はOxford Bookworms Libraryで、それは第1段階400ヘッドワード、第2段階700ヘッドワード、第3段階1000ヘッドワードで書かれています。望月氏らは、日本の中学校用教科書3種類以上に共通して使われている語彙991語で、この多読教材用テキストのどれくらいがカバーできるかを調べました。その結果は次のようです。

 第1段階(400ヘッドワード) 53%

 第2段階(700ヘッドワード) 48%

 第3段階(1000ヘッドワード) 40%

これでは日本の中学生には多読用としてだけでなく、精読用としても歯が立たない感じです。その原因は語の数え方の違いにあります。それよりも重大なのは、日本の「指導要領方式」の数え方で1000語くらいでは、「ヘッドワード方式」でリライトされた英語が読めるようにはならないことです。それが読めるようになるためには、先の派生語の計算からして、「指導要領方式」の2000語以上を習得する必要があるでしょう。日本の学校でこれに達するには、高校2年生の半ばまでかかる計算になります。

 さらに、「ワードファミリー方式」の数え方というのがあります。たとえばcareに他のいろいろな語が付いて、次のような、いわゆる「複合語」をつくります。

  care attendant, care card, carefree, caregiver, caretaker, care worker, etc.

これらはほんの1例ですが、基本語はこうして次々に他の語と結合して新しい語を生み出します(最近care managerというのをよく聞きますが、和製英語でしょうか)。複合語には1語として綴るものと2語(または3語)に分かち書きするものがありますが、上の例のように、分けてあっても1語として扱ってよいように思われます。多くの辞書はそれらのうち頻度の高いものを見出し語にしています。外国で出版される多読用教材などで言う「ヘッドワード」は、一部のファミリーワードを基本語に含めて1語としているものも少なくないようです。ネイティブ・スピーカーがcare cardやcare workerを新語としてカウントするとは思えません。こうして語をどう数えるかという問題は、語をどう定義するかという言語学的問題と絡んで、ますますこんがらがってきます。

 ここまでくると、筆者がこの語彙学習論の初めのほうで基礎的な語彙を2000~3000と曖昧にした理由が分かっていただけたのではないかと思います。語をどう定義しどう数えるかによって、同じ語彙リストが2000にも3000にもなるからです。そしてその議論からひとつ明らかになったことは、日本の文科省の学習指導要領に従って作成されている検定教科書では、「ヘッドワード方式」または「ファミリーワード方式」でリライトされた1000語レベルのテキストでさえ、高校2年生後半にならなければ読めるようにはならないということです。つまり、本当に英語を読み、使えるようになりたい学習者は、語彙に関しては、学校で使う検定教科書に頼っていてはダメです。学習者自身の語彙研究による到達目標の策定と、それへの達成意志が必要不可欠なのです。(To be continued.)