Archive for 9月 17th, 2011

< 原発論争に備えて ② 放射線 > 松山 薫

② 原発事故と放射線

 原発論争に備えて① で紹介したNHKの討論番組の中で「これほどの被害が出ているのに、まだ原発が必要だというのは理解できない」という意見がありました。「これほどの被害」とは具体的にどんな被害なのかを、事故から半年を機に②と③に分けてまとめてみました。

原発では、原理的、構造的に原爆のような爆風や熱線を伴った核爆発は起きないとされており、原発事故の被害は主として放射線によるものである。放射線というのは放射性物質(放射能)から出る目に見えない粒子線などで、α線、β線、γ線があり、広義にはX線なども含まれる。世界で初めて放射線を発見したのはドイツの物理学者ウィルヘルム・レントゲンで、1895年のことであった。彼は、目には見えないが、物質を透過するこの不思議な線をX線と名づけた。この発見を知って、不思議な線が何から出ているのかを突き止めたいと考えたのがフランスのマリア・キュリーであった。キュリーは、わすかに放射線を出す8トンもの瀝青ウラン鉱を大鍋で煮詰め、4年近くかかって1902年に世界で初めて10分の1グラムの放射性物質を取り出すことに成功し、これをラジウムと名づけた。キュリー夫人は66歳の時、原因不明の病気で死んだが、放射線の影響による白血病ではなかったかといわれる。

 放射性物質には、ラジウム、ウラン、トリウムなど自然界に存在するものと、人工的に作られる放射性ヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムなどがある。放射性物質から出る放射線は、生物の遺伝子を傷つけ、大量の放射線(7シーベルト以上)を浴びれば、生物は死に至る。1999年に東海村で起きた臨界事故では、7シーベルト以上の放射線を浴びた2人の作業員が死亡している。放射線は少量でも遺伝子に突然変異を起こしガンなどを発生させる。放射性物質は放射線を発しながら壊れて別の元素に変っていくが、元の元素が半分の量になる時間を半減期と言い、放射性ヨウ素131(甲状腺ガン)は8日、セシウム137(土壌になじみやすい→埃、作物)30年、ストロンチウム90(白血病・水溶性→魚介類)29年、プルト二ウム(生殖器、肺)は2万4千年であるが、中にはウラン235のように数億年かかるものもある。半減期の短いものほど短期間に多くの放射線を発する。半減期を早める方法はない。つまり、放射線による被害を避けるためには、近づかないか、除染しかない。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故は、国際原子力機関とOECDの原子力機関が定めた国際的な事故評価尺度のレベル7、つまり1986年にウクライナのチェルノブイリ原発で起きた事故と同じ史上最悪レベルの原発事故である。チェルノブイリ事故で大気中へ放出された放射性物質は520万テラベクレル(テラは1兆倍)、福島では57万テラベクレルで原爆168個分という計算もある。また福島第一原発から海中に放出された放射性物質は5京ベクレル(京は兆の1万倍)に達する。(数値はいずれも、原子力研究開発機構が原子力安全保安院に報告した計算上の推計値)

 福島原発からの放射性物質の放出は、まだ止まったわけではなく、原子炉や使用済み核燃料棒(4546本)を保存するプールの冷却が計画どおり進まなければ、増え続ける。また、福島原発では、施設内に12万トンに上る放射能汚染水が溜まっており、これに含まれる放射性物質は80万テラベクレルと推計されている。この一部が海へ流れ出したほか、敷地内に保存しきれなくなった低濃度の汚染水を海中に放出した。さらに、現在は圧力容器から漏れて格納容器の下部に溜まっていると見られる溶融した核燃料が、底を突き破り、地下水と反応して水蒸気爆発を起こし放射性物質を大量に放出する可能性もないとはいえないだろう。原子炉の温度を100度未満にする冷温冷却が予定どおり進んでも、それから廃炉までは数十年と言う長い危険な道のりが待っており、放射線で高濃度に汚染された原発敷地は、半永久的に存在し続ける。(M)

< 原発論争に備えては ② 原発事故と放射線 ③ 福島原発事故の被害 ④ 自然エネルギーの可能性 ⑤ それでも原発は必要か‐安全な原発はありうるか ⑥ 便利な生活と豊かな生き方 の順序で掲載する予定です。私自身の立場は脱原発です。>