Archive for 1月 21st, 2012

TPPを考える ④−2 総論の対立

 TPP参加の事前交渉が今週17日に始まった。TPPは、加盟国の全ての貿易品を対象として、10年以内に関税を原則撤廃することを目指す他、サービス貿易での非関税障壁の撤廃をも目的としている。交渉の前提として互いに例外品目を設けることの出来るEPAやFTAとは次元の異なる協定であり、国民生活の広い分野に影響を及ぼし、社会のあり方にもかかわるから、総論、各論の両面から慎重な検討が求められる。

TPPについての現・野田政権の総論は④−1でふれた「包括的経済連携に関する基本方針」に集約されており、要点は次の通りである。

* 世界経済の中で、日本の相対的地位は趨勢的に低下している。
* 主要貿易国の間の経済連携において、日本の取り組みが遅れている。
* このままだと貿易・投資環境で世界に遅れ、将来の雇用機会が失われる。
* よって「国を開き」「未来を拓く」決意を固めTPPに参加したい。

 この総論は、日本経団連が2011−4−11に発表した「わが国の通商戦略に関する提言」
及び別添の「TPPを通じて実現すべき内容」と軌を一にしている。また、朝日、読売、日経など大手各紙の論調も自由貿易推進の立場からTPP参加を支持している。

一方、私が読んだ7冊の本(④−1.に「間違いだらけのTPP 東谷暁」を加える)では、TPPについて、次のように総括している。

* 「日本は既に、貿易収支の黒字から資本収支の黒字に依存する債権大国になった。成長経済から成熟経済に移行し、債権大国として生きていくことを選択すれば、TPPやFTAなどアメリカ主導の市場囲い込み行動に追随する必要もなくなる」 
“2012年‐資本主義経済大清算の年”(同志社大学大学院浜矩子教授ら共著)
* アメリカにとって最も忠実なパートナーであり、かつアメリカを支えるだけの貯金を持っているのは日本。これまでもアメリカは日本にアメリカを支えるよう水面下で要求してきたが、これからはもっと露骨になるのではないか。・・・アメリカの政府文書を読めば一目瞭然だが、(アメリカ経済を救うため)日本が明確にターゲットにされている。その典型がTPPである」“グローバル恐慌の真相”(京都大学大学院中野剛志准教授ら共著)
* アメリカの現在を支えているのはもはや、自動車などの工業製品ではなく、金融や投資などのサービス産業である。したがってTPPにおけるアメリカの狙いもここにある。この分野におけるアメリカの要求を受け入れれば、国としての政治的独立が侵される事態が予想される。”間違いだらけのTPP “ (フリージャーナリスト東谷暁著)

 私はあえて“TPP反対”の本だけを選んで読んだわけではない。80万冊を収容するという藤沢ジュンク堂の書架を何回も探したが、TPP反対の農協を攻撃する本はあっても、全体を見通してのTPP賛成の本は見つからなかったのである。ネットでMAZONの広告を探したら1冊だけあったが、書評に”TPP本には珍しく賛成の立場。但し学生レポートのレベル“とあった。この奇妙な現象は、何を物語るのか。(私の考えは最終章の「TPP私見」で述べる)
 
 さて以上のように、TPP協定に関しては、具体的な項目についての賛否以前に、TPPそのものについての総論で、意見は真っ向から対立している。この7冊を含めて、これまでに新聞、TV, 雑誌、書籍などから私が拾い集めた総論についての賛否の意見を紹介する。    ○ 賛成 ● 反対

○ * 資源に乏しく加工品の輸出にたよる貿易立国の日本
     とって、自由貿易は生存基盤。日本は自由貿易によっ
     て豊かな国になった。
  * 新興国の進出によって日本の貿易収支は赤字になりつ
     つある。輸出増は経済成長・雇用の確保に不可欠。
  * 日本企業の海外進出、海外での活動に有利。
  * 自由貿易を推進すべきWTOは袋小路に入って機能不全
     に陥っている。
  * TPPは、APEC全体を包含するFTAAPを目指す開かれ
     た組織である。参加しないと孤立する。
● * 日本はすでに貿易立国ではない。(輸出依存率は12%。
     韓国は50%)
  * 自由貿易論が立脚しているデビット・リカードの比較優
     位論は既に破綻しており、完全自由競争の行き着く先
     は、少数の勝者と多数の敗者を生む荒涼たる世界で
     ある。
   * ものづくり偏重とその輸出からの脱却が急務。外需頼み
      の経済を改めるべきだ。
   * 日本はいまや債権大国であるから、貿易外収入を活用
      せよ。2008年の貿易収支が4兆円の黒字であったの
      に対し、所得収支の黒字は16兆円であった。
  *  たまりにたまった外貨準備をもっと活用せよ。
  *  TPP参加によって増加するGDPは年間わずか2700億
      円という試算がある。
  *  海外の日本企業はいまや多国籍企業或いは無国籍企
      業で国民の利益にはつながらない。
  * 自由化交渉は、WTOやFTAの方が日本の利益を守りや
     すい。
  * WHOが行き詰まったのは、大国の無理な注文のせいで
     ある。
○ 日本はTPPに参加して「第三の開国」を目指すべきだ。
● 日本の関税率は相対的に低く、既に十分に開かれている。
    鉱工業製品の平均関税率(アメリカ 3.3% 日本 2.2%)
○   EPAやFTAで実現できなかった日本の要求をTPPで実現
    できる可能性がある。
●   交渉には互いに譲歩(offer)が必要だが、開国の進んで
    いる日本には、国民の生活に深刻な影響を与えるもの
    を除くと、offerできるものがほとんど無い。
○   アジアの成長を呼び込める。
● 中国、韓国、インド、インドネシアなどが入っていないTPP
    でアジアの成長を呼び込めるのか。
○   貿易の拡大により経済の活性化を図ることが出来る。
●   安い商品の流入によるデフレの深刻化が進み、回復不能
    のスパイラルに陥る。
○   国内産業の空洞化を防げる。
●   空洞化の原因は円高。
○   日米同盟を経済面から深化。
● * アメリカの輸出倍増計画、雇用増大に利用されるだけ。
  * アメリカ的弱肉強食的社会慣行が蔓延し、社会格差がさ
     らに広がる。
○   各分野で競争原理の導入が必要。
●   歴史的、風土的に、独自の習慣や規制があることは当然
    だ。すべての規制を取り払おうとした構造改革の悲惨な結
    果を見よ。
○   今後の交渉次第で不利な点はカバーできる。
●   もともと日本の交渉力は弱い。連戦連敗だったかつての日
    米交渉の結果を考えよ。
○   早期に参加してルール作りに加わらないと不利になる。い
    わゆるセンシティブ品目についても意見が言えなくなる。
● * 内容がわからないのに参加して、不利だとわかれば脱
    退できるのか。
  * ルールは既に大方決まっている。全てを自由化の
    テーブルに載せるのがルールだ。
○   世論の体制派TPP参加に賛成。大手各紙も賛成論だ。
●   調査に判らないと答えている人が多い。内容がわかるに
    つれて賛否の差が縮まっている。

○●の前に○×を付していくと、現時点における自分の考えが明確になっていくのではないかと思います。

 ところで、世界経済は、実体経済を伴わない金融資本の暴走によってリーマンショックに続く第二の危機に直面しており、世界恐慌の崖っぷちに立っているという説もある(「グローバル恐慌の真相」)。また、日本経済に打撃を与えている”歴史的円高“は、予見しうる将来に1ドル50円まで進むという説もある(「2012年‐資本主義経済体制大清算の年」)。世界恐慌に対応するための列強による経済のブロック化が、第2次世界大戦につながったという根強い考え方がある中で、TPPや日・中・韓FTAが、世界全体にどのような影響を与えるのかも検討すべき重要課題だろう。(M)