Archive for 2月, 2013

(128)英語との付き合い-44

<日本人英語学習者の考え>(44)

指導者と教材

5.アンケ−ト回答者の選択 (末尾の数字は後掲書の番号」

* 単にやさしいという理由で教材を選ばない。… 「中学生でもわかる」とか「やさしい」という言葉は、なるほど、英語に対する苦手意識を持った人には魅力的に響くかもしれない。しかし、貴方が社会人だとしたら、一体何のために英語を勉強するのだろうか。たとえば、海外との仕事で使うのが目的だとしたら、いまさら小学生向きに書かれた絵本のような教材や、中学校の教科書のような内容の教材を使って勉強してみても、馬鹿馬鹿しく感ずるだけで、やる気がでないだろう。…あえて乱暴な言い方をすれば、市販の英語会話教材など、どれも五十歩、百歩といったところかもしれない。…次の4つのポイントを考えて教材を選ぶべきだ。
1.やる気が出るか  2.自分の目標にあっているか  3.集中して取り組めるか 4.使いでがあるか(応用できるか)。(10)
* 言語に関する知識は言語を用いる技能と同一ではない。...技能の獲得には、実際に使ってみて幾度も誤りを犯し、反省し、修正し、学習者自身が納得するシステムに仕上げていくプロセスが必要なのである。それは学習者に大変な時間と努力を要求する。そもそも、学校でできることは、実践的コミュニケーションの中の、ごく限られた範囲の活動だけである。われわれ教師は、このことを銘記すべきであって、何でも取り入れようとすると虻蜂取らずの状態になる。最近のわが国の英語指導は、明らかにそのような兆候を示している。(4)
* 日本の英字新聞が高校の教材としてよい理由...日本のどこかで火山の爆発があったに日の翌日、英語の時間に先生が英字新聞の関連記事を使ったとしましょう。生徒たちは既に家でTVやいろいろなメディアでこの事実を知っていますから、あああのことだなと思いながら英語を読むので、英語をやさしいと感じるのです。単語の点でも、どれが日本語の噴火、爆発、火口、火砕流、溶岩などに相当するかが、初見でもだいたい見当がつく場合が多いから不思議なものです。...それに全般的に英語がやさしいからです。その理由のひとつは、記事の多くが日本人によって書かれているからです。(8)
* 若い教師たちへの期待...中学高校のときの先生は進藤栄先生でした。怖い先生でしたが、生徒一人一人の飲み込み具合に応じて,懇切丁寧に指導されました。...大学の時の先生は羽柴正市先生でした。先生の授業は先生が録音した米軍の極東放送(FEN)のニュースを全員が日本語に起こして発表する実習でした。時に先生でも聞きとれない単語やセンテンスがありました。そういう時先生はクラスでただ一人の米国がえりのH君に「ここはなんですかね」と尋ねるのです。(6)
* 発信型の英語がうまく使えるようになるためには、会話力をつけることが何よりも大切だ、と考えることはまったくの間違いなのです。会話の練習に熱中する前に、しておかなければならない大切なことがいくつもあるからです。会話力がつくのは結果であって、目的ではないのです。なによりも、日本人が英語で発信できるようになるためには、中学から大学にいたるまで、その目的に沿う、内容の一貫した、適切な教材を使って、いろいろと勉強しておかなければ駄目です。(8)
* 多くの若い人や学生が、アメリカ人を主とする外国人について英会話を習っていますが、ある意味で大変に危険なことです。アメリカ人が悪いといっているわけではなく、イギリス人でも同じです。なぜかといえば、問題は主として会話を習う、日本人の側にあるからです。...具体的にいうならば、アメリカ人的な価値観を正しい普遍的なものと認めて受け入れるつもりなのか、ただ単に便利な国際交流の手段としての英語だけを学ぶのかを学べばよいので、別にアメリカ人になるつもりなどまったくないかを、はっきりと自覚的に区別しておく必要があるということです。(8)
* 日本の公教育の場での英語教育は成果を挙げていない。教育のあり方を改革すべきだ、という議論が交わされるようになって久しく時が経過した。...この間の英語改革論議は見るべき成果を挙げていない。それどころか、思いつきの、根拠を欠いたアイディアの導入が現場に混乱をもたらし、これまで積み上げてきた教授法を小突き回した挙句の果てに、教育体系が破壊され、教師は批判にさらされるだけで、信頼に値する代替案は一切提示されてこなかった。(2)
* 言語学者のロバート・フィリプソンは、英語帝国主義者たちは次の教義の虜になっていると指摘する。 1.英語は他と併用せずに、英語だけ単独で教えるのが一番いい。2.理想的な英語教師は、英語を母語とするネイティヴ・スピーカーである。3.英語を教えるのは速ければ速いほど効果的だ。4.英語をより多く教えれば、よりよい結果を生む。5.他の言語を使うと英語の標準は落ちる。(6−96)...しかし、フィリプソンの立論は、それを使う人間の意志と、それを使うことでうる自由の広がりと感覚をことさら無視している。英語帝国主義論の最大の弱点は、英語を志向するのが強者ではなく弱者であるという事実である。(6)
* 教育の改革を論ずるとき、誰が、何を、どのように教えるのか問い動く当たり前というごく当たり前の課題が明確にされなければ一歩も前に進めない。...「話せる英語教育」を強調する人びとはだから、この当然の疑問に対して、英語を話せる「外国語指導助手」(ALT)の導入や英語教師の海外研修などという新しい制度の採用を唱えてきた。ALTの導入がいかなる成果を挙げてきたのか、現実に即して検証した話はあまり聞かないが、なんの成果もあげていない。予算の無駄使いに終わっていることは、現場の教師が一番よく知っている。(2)
* 本格的なコミュニケーションを成立させるには、現在行われている英会話教育では、たとえ、ネイティヴの指導を受けても、実りはあるまい。現在、中学校に導入されつつあるような、ネイティヴがアッシスタント・ティーチャーとして週に一、二度会話の授業を担当する程度でお茶を濁すのは、かえって有害である。(9)

● 私の見解

6. 指導者と教材

 人によって、自分に合う学習法があるとは思いますが、基本的に言えることは、前回述べたように、価値あるものは、自ら努力して手に入れるべきだということです。従って、私達の構築した学習法は、徹底的に自助努力を要求します。教える側はそれを最大限サポートするだけです。つまり、我々の学習会は生涯教育の授業ではなく、生涯学習の場であることを、ことるごとに強調しました。これには反論もありました。「それは教える側の責任回避ではないか」といわれたことがあります。私はいささか失礼ながら、「水は自分で飲むものですよ」( A man may take a horse to the water but can’t make him drink. )と答えていました。
 
 SILENT WAYという外国語学習法は、その名が示すように、教師はなるべく沈黙を守る。教えるのではなくて、学ぶ手助けをする。学ぶとは「気付き」である。学習とは、知識を詰め込むことではなく、運用の方法を身につけること。教師の役割は、生徒の内部に起きる変化を注意深く観察し、仮説を立て検証して次の学習に役立てること。などが基本的な考え方です。私が、石山分校で、悪戦苦闘しながらたどり着いたのは、まさにこのような考え方でした(2011−3−5)。このような考えにもとづいて茅ヶ崎方式の教材を作るときに、学習者の立場に立つ方法として考えたのが、先に述べた“縛り”です。たとえば、BOOK−4では、ひとつの用例に3語以上の赤字(基本4000語のうち、BOOK−3とBOOK−4に割り当てた2000語)を入れることを最大の“縛り”として作成協力者の皆さんにも、とことんこだわってもらい、何とか目標を達成しました。その他の主な“縛り”については、OOK−4の「この教本の構成と使い方」に記してあります。“縛”りによって教材作成者が工夫をこらせばこらすぼど、学習者は効果的な学習が出来ると考えたのです。

 30年前に我々の学習会が出来た頃には、いわゆるネイティブ信仰が強く、入会問い合わせの電話でも、“講師はアメリカ人ですかイギリス人ですか”と尋ねる人がほとんどでした。実は対話クラスの講師には外国人がいたのですが、私は受付の人に「全員日本人です」と答えるように伝えておきました。私は、対話を除いて、我々の方法論による英語学習には日本人講師のほうがよいと考えています。長い英語学習の苦闘の中で、日本人の誰もが体験する様々なハードルを乗り越えた人でなければ、相手の身になった指導や助言は無理だろうと思うからです。

 自分のことは案外よくわからに場合が多いものです。第3者から見ると随分おかしなこともあるだろうし、自分が思っているよりもよいこともあるでしょう。それを的確に指摘できる人がよい指導者だと思います。もう30年も前のことですが、スイミング・スクールでコーチが上級クラス数人の4泳法をビデオで撮って、コメントしてくれたことがありました。全員が”え!こんなひどいの!“と嘆く中で、私だけが”こんなにうまいとは思わなかった“と言ったので大笑いになりました。しかし、コーチは真顔で「松山さんはこれで結構です。基本は出来ていますから、後は、自分の個性を伸ばすようにしてください”とコメントしてくれました。それが、私にとっては自分の泳法に対する絶対的自信につながり、その後ずっと水泳を続けることが出来ました。今は、老人向きの4泳法を自分で開発して、楽しく泳いでいます。そしてそれが狭心症の治療に必要な有酸素運動療法として、命を永らえることにつながっているわけで、若くして逝ったコーチへの感謝の念は年とともに深くなり、私にとっては数少ない本当の意味での「恩師」の一人だと思っています。(M)

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1.日本語力と英語力 斉藤孝・斉藤兆史 中公新書 2.英語は日本人教師 上西俊雄 洋泉社 3.超英語学習法 野口悠起雄 講談社  4.英語の音読指導 土屋澄男 研究社
5.世界の英語を歩く 本名信行 集英社新書  6.あえて英語公用語論 船橋洋一 7.英語を子供に教えるな 市川力 中公新書  8.日本人は何故英語が出来ないのか 鈴木孝行  岩波新書  9.誰がこの国の英語をダメにしたのか  澤井繁男  NHK出版 10.英語屋さんの虎の巻 浦出善文 集英社新書 (M)