Archive for 4月 1st, 2013

「己を知る」というのは古来の金言ですが、これほど重要で達成の困難なことは他にありません。誰でも、自分が興味のある他人のことはよく観察します。そしてあの人はこんな人だと、かなり勝手な判断をします。そして人が二人三人集まると、そんな話題で座が盛り上がります。人はみな、自分のことを棚に上げて、他人を批評することが好きなのです。ところが誰も、自分自身を話題にすることは好みません。他人のことはとやかく言うのに、自分のこととなると口が重くなります。また、他人から自分についての批評を聞くことも好みません。その批評が当たっていると思えば不愉快ですし、見当はずれだと思えば黙ってはいられません。

 しかし英語の学習において、自己を知ることは非常に重要です。なぜなら、英語という言語を自分のものとするのに、真に頼りになるのは自分自身だけだからです。学校の生徒は先生を頼ろうとしますが、それだけでは英語はものになりません。先生は「これは大切だからしっかり覚えなさい」などと言いますが、覚えるのは先生ではなく、生徒であるあなた自身です。そこで頼りになるのはあなただけなのです。赤ちゃんも、母語習得の早い時期にそのことに気づきます。言語の音声は自分の意志で発しなくてはならないもので、それを誰か他の人に代わってもらうことはできないからです。一つの語を覚えるにも、一つのセンテンスを作るにも、頼ることのできるのはあなた自身なのです。

 英語を学ぶのに頼ることができるのが自分自身だけだとすれば、その自分は、自分が頼るに値する、信頼できる自分でなければなりません。「私はどうも記憶力が悪い」とか、「私はそもそも語学の適性がない」などと言って逃げてしまう人は、決して英語をものにすることはできません。しかしその人は、本当に記憶力が悪いのでしょうか。適性がないのでしょうか。それは自己についての偏見ではないでしょうか。その人はおそらく、これまでの学校での学習経験から、自分を他の人と比較してそのように思っているのでしょう。しかしそのように自己を低く評価する人は、何をするにも消極的で、失敗することが多いのです。あまり自信過剰なのは高慢になって良くありませんが、困難を乗り切るためには自分自身を信頼することが重要です。母語習得に取りかかった赤ちゃんは、自分を100パーセント信頼しています。もちろん赤ちゃんは自分のことをよく知っているわけではありませんが、自分の能力を疑ったりはしないはずです。

 しかし自分を他の人と比較せずに評価するということは、大人には非常に難しいことです。どうしたらよいでしょうか。まず、自己を完全に理解することなどほとんど不可能だと達観することです。それは生涯にわたる課題であって、死ぬまでにできればいいくらいに考えるべきです。それよりも、自分自身を実際以上に低く評価することを防がなければなりません。自己に対する消極的評価は学習意欲を失わせるからです。それよりも、前進しようという意欲を高めてくれるような積極的な評価をすることが大切です。学校の先生がそれをしてくれるとよいのですが、常にそれを期待することはできないでしょう。そこで、自分でできるいくつかの事柄を挙げます。

 第1に自分を他の人と比較しないように心がけることです。人はそれぞれ違います。自分が他の人たちと違っているのは当たり前のことなのです。そして本当の違いは、学校のテストなどの結果からは見えてきません。学校のテストに強い人はテストに強いという一つの長所を持っていますが、それだけのことです。テストの結果は、いかなる場合にも、あなたの全般的な学力や人格を正しく反映しているわけではありません。それはあなたが現在持っている力のほんの一面を表わしているに過ぎません。自分の中に埋もれているいろいろな力を発揮するためには、テストの結果に右往左往されないことが賢明です。

 第2に、良い友人を持つことは大切ですが、自分を心から愛し助言してくれる信頼できる人以外には、自分に対する他人の批評を気にしないでください。まず自分自身の心の中の声に耳を傾けてください。人にはすばらしい「気づきの力」が与えられています。「学びの力」と言ってもよいでしょう。赤ちゃんはそれを利用して母語学習を進めていきます。そのようにして、彼らはしだいに自信を持って言葉を話せるようになるのです。いつも他人の批評を気にしていては、いつまでたっても話せるようにはなりません。あなたも、ネイティブ・スピーカーや学校の先生の話す英語を絶対的なモデルと考えてはなりません。時に真似することも必要ですが、あなたの英語は、自分に与えられている力を利用して自分で創り上げていくものなのです。(To be continued.)