Archive for 5月 1st, 2014

前回の「品詞」(parts of speech)に続いて今回は「語形変化」(inflection)の話に入ります。語形変化というのは英語に限ったものではなく、ヨーロッパの言語では普通のことです。ドイツ語やフランス語やスペイン語を学んだことのある方は、英語以上に複雑な語形変化に出逢って面食らった経験をお持ちのことでしょう。筆者も学生時代にドイツ語を学んだときには、最初に定冠詞の格変化(注1)を暗記させられて、こりゃ大変な言語だと思ったものでした。ちょっと思い出して書いてみます。定冠詞だけでこれだけの変化をします。

(男性単数)der, des, dem, den ;(女性単数)die, der, der, die

(中性単数)das, des, dem, das ;(複数)die, der, den die

これに比べると英語の冠詞は単純です。定冠詞はtheと決まっています。男性も女性も区別しません。単数も複数も関係ありません。不定冠詞はa(またはan)だけです。ドイツ語は不定冠詞も格変化をします。それだけではありません。ドイツ語ではほとんどの名詞が性と数と格の変化をするのです。これはフランスの場合も同様です。ですからドイツ語やフランス語を先に学んだ人は、英語の語形変化は物足りないほど簡単で、こんなシンプルな言語があり得るのだろうか、とびっくりすることでしょう。そういうわけで、英語の語形変化はそんなに難しくありません。しかもその範囲は名詞・代名詞、形容詞・副詞、および動詞・助動詞に限られます。

英語の名詞は単数形と複数形の区別にだけ注意すれば大丈夫です。ただし名詞には数えられないものがあり、それらの名詞は複数形にはしません(e.g. beauty, luck, milk, wheat)。数えられる名詞については多くの場合、単数形の語尾に-s(または-es)を付けて複数形を作ります(e.g. bird—birds, boy—boys, dish—

dishes)。しかしそうでない不規則なものもあるので注意が必要です(e.g. child—children, man—men, tooth—teeth)。そこで名詞の複数形については、不規則なものを先に覚えてしまえば、問題の大半は解決します。不規則なものの数は限られていますので心配ありません。歯医者に行ってteethをうっかりtoothsと間違えても、笑われはするでしょうがコミュニケーションに支障はないでしょう。こういう規則から外れた語形は幾度か失敗を繰り返しながら覚えていくものです。

次に代名詞にうつります。英語の代名詞は男性・女性、単数・複数の区別のほかに格(主格、所有格、目的格)の変化があります。ここにはドイツ語やフランス語に似た格変化が残っています。そもそも英語はドイツ語の一方言から発達したものですから、それはむしろ当然のことです。英語学習者もそれらの形はきちんと覚える必要があります。しかし恐れることはありません。次の表が英語の人称代名詞のすべてです。中学校の英語の授業で居眠りをしていた人は今ここで覚えてください。

(1人称単数)I—my—me (1人称複数)we—our—us

(2人称単数)you—your—you(2人称複数)you—your—you

(3人称単数)he—his—him, she—her—her, it—its—it (3人称複数)they—their—them

次は形容詞と副詞ですが、これらは程度の差を表わすための比較変化(比較級・最上級の変化)をします。変化のタイプは次の3つです。

①1音節の語では語尾に-er, -estを付ける(ただし綴り字に注意):e.g. fast—faster—fastest, big—bigger—biggest, large— larger—largest

②2音節以上の語では前にmore, mostを加える(注2)e.g. famous—more famous—most famous, useful—more useful—most useful, difficult—more difficult—most difficult

③不規則に変化する:e.g. good(well)—better—best, bad(ill)—worse—worst, much(many)—more—most, little—less—least

そうすると③の不規則なものを先に覚えてしまえば、あとは①と②の区別だけになります。こうして英語の形容詞・副詞の語形変化はしごく簡単なものになります。授業で半分眠っていても大丈夫なくらいです。残るのは動詞・助動詞の語形変化ですが、特に動詞は、英語の語形変化の中でいちばん複雑で難しいものです。その学習には相当のエネルギーを割いて注意深く学習する必要があります。そこでは集中しなくてはいけません。次回をお楽しみに。

<注1>名詞(および代名詞)は文の中で主語になったり、所有を表わしたり、目的語になったりします。文中での他の語に対するこのような関係を「格」(case)といいます。日本語では「…は(が)」、「…の」、「…に」、「…を」などの助詞を使ってその関係を表わします。一方、ヨーロッパの多くの言語は語形変化によってこの関係を表わします。ドイツ語の場合には名詞だけでなく、とそれに付随する冠詞や形容詞も4つの格変化をします。①主格、②属格(所有格)、③与格(間接目的格)、④対格(直接目的格)です。英語の場合には名詞は主格と目的格(間接目的、直接目的)は同じ形のままで、変化はしません。名詞に付く冠詞や形容詞も格変化はしません。名詞に- ’sを付けて所有を表わすことがありますが(e.g. my father’s briefcase)、この形をわざわざ「所有格」と呼ぶ必要はありません。英語はドイツ語の一方言から発達した言語なのに、名詞の格に関しては、その変化はすっかり退化してしまったのです。格変化はわずかに代名詞に残っているだけです。

<注2>多くの学習参考書は、2音節語の比較変化を①のタイプ(-er, -estを付ける)のものと②のタイプ(more, mostを加える)のものに分けています。しかし①なのか②なのかを判断することは、日本人の英語学習者にとってかなり難しい問題です。そこで筆者は、2音節の語をすべて②のタイプに入れてよいと考えています。たとえば、English is easier to learn than German. / English is more easy to learn than German. では前者が好まれるのかもしれませんが、後者も現代英語では実際に使われますので、誤りとは言えないと思います。後者を許容することによって、形容詞・副詞の比較変化の学習は大幅に単純化されます。