Archive for 12月 23rd, 2014

前回に述べたことは、英文にはすべて主語(S)が必要であり、それが文の最初にくることでした。そして主語を原則として必要としない日本語を使用している私たちにとっては、つねに主語を必要とする英語を学ぶことが決して容易ではないことを知りました。英文は主語と述語から成っていますので、今回は主語に続く述語(より正確には述部;Predicate)を見てみます。もう一度5つの基本文型をながめてみます。

① S+V; ② S+V+C; ③ S+V+O; ④ S+V+O+O; ⑤ S+V+O+C

これら5つのすべてにおいて、主語Sの後にくるのが述語です。すると誰でも最初に気がつくことは、英文の述語はすべてその頭に動詞(V)がきて、その後に補語(C)や目的語(O)が続くということです。このことから次の3つのことが言えます。

(1)英文にはすべて動詞(より正確には述語動詞)が必要である。

(2)述語動詞は主語の後、述部の頭に置かれる。

(3)補語や目的語は動詞の後に置かれる。

まず(1)について。英文に動詞が必要なことは、少し英語を学んだ人には自然に気がつくことです。しかし日本語を習得した日本人にとっては、すべての文に動詞が必要だということは自明のことではありません。なぜなら、日本語には動詞の無い文はいくらでもあるからです。たとえば、日本人は美しいものを見て、「美しい。」と言います。かわいいものを見て、「かわいい。」と言います。日本語の「美しい」や「かわいい」などの形容詞は、終止形を使えば、主語が無くても、それだけで文になります。一方、英語では主語と動詞が無いとちゃんとした文になりませんので、そういうときには “It’s beautiful.”  “They’re cute.” のように言うのが普通です。この英語と日本語の違いは、学校ではほとんど教わることがないかもしれませんが、とても重要なことです。

次に(2)の、主語の直後に述語動詞がくることに注目します。これも非常に重要なことです。なぜなら、英語では述語動詞の形が主語の性質によって変化するからです。つまり、主語と述語動詞は密接に関係しているのです。どのように密接に関係しているかを知る例としては、be動詞を使う文が分かりやすいでしょう。次のように、主語が何人称であるか、またそれが単数か複数かによって、動詞の形が変化します。

I am a student. / You are a student. / He (She) is a student. / We (They) are students. / I (He, She) was a student. / We (They) were students.

これらは英語学習の初期に出てくる文なので、生徒たちはなぜそのように動詞の形が変化するのかについて疑問に思うことはないかもしれません。先生に尋ねても、「英語ではそういうことになっているのだ」というようなことしか答えてくれないでしょう。しかしよく考えてみると不思議です。その不思議さは、英語の後にフランス語やドイツ語などを学んだときに氷解します。ヨーロッパの言語がみなそういう文法規則のある言語であることを知るからです。つまり、主語と動詞が密接に関連しているのです。フランス語やドイツ語では、主語の人称や数(単数・複数)だけではなく、性(男性・女性など)によっても変化します。幸いに、現代英語はそのような複雑な変化が退化して簡単になりました。英語では「be動詞の変化」と「3人称単数現在」の規則を知っていれば、この問題はほとんど解決します。日本語には原則として英語のような主語が無いのですから、動詞の形を主語に合わせるなどの面倒なことはまったく考慮する必要がないわけです。

(2)と関連して、日本人の学習者にとっていちばん難しいのは、(3)を含めた述部の語順の問題でしょう。英語は主語が必要であり、その後に述部がきて、その先頭に動詞がきます。これに対して日本語は主語が不要であり、動詞がつねに文の末尾に置かれます。日本語で動詞の前に置かれる補語や目的語やその他の要素(修飾語句)が、英語ではほとんど動詞のあとに置かれることになります。これは非常に大きな違いです。なぜなら、頭の中で文を作るプロセスが日本語と英語ではまったく違うものになるからです。たとえば文を作る場合、英語話者では主語と動詞(何がどうするか)が最初に意識されるのに対して、日本語話者では補語や目的語(対象が何でどんなものか)が動詞よりも先に意識されるに違いないのです。この違いは、一般に考えられているよりも、ずっと大きいと思われます。日本人のほとんどが英語を不得意とする最大の原因は、おそらく、ここにあると考えられます(注)。日本人が英語を学ぶときには、このような語順の違いを克服し、頭の中で自動的に語順を切り換えられるようにすることが必要なのです。

(注)英語の5文型に相当する日本語の基本文型は、金谷武洋『日本語に主語は要らない』(講談社選書メチエ2002)によると、次の3つです。

①名詞文:赤ん坊だ。②形容詞文:愛らしい。③動詞文:泣いた。

英語に比べて驚くほど簡単です。金谷の日本語文法は、『象は鼻が長い』の著作で知られる三上章のアイディアを発展させたものですが、本ブログの筆者(土屋)の見解では、金谷の論述は説得力があり、その根幹部分の記述の妥当性は、彼の長年の日本語教育の実践によって実証されていると思います。金谷の提示する日本語文法が正しいとすれば、日本人が英語に苦労する最大の理由は、日本語の基礎構造があまりにも単純明快な言語だからということになります。