Archive for 2月 28th, 2015

( 番外 ) < 確定申告の憂鬱 >          
 毎年2月に入ると憂鬱になる。税金の確定申告書を書かなければならないからだ。最近は加齢による視力の衰えも重なって、心の憂さがつのる。どうせ出すのだから早く書いてしまえばよいとはわかっていても、あの煩雑さを考えると、なかなか取り掛かる気にならないのである。先日新聞の投書欄で「確定申告 簡単にならないか」という79歳の主婦の投書を読んで「あゝ、みんな同じ気分なんだなあ」と妙にホッした。

 政治とは畢竟「税金の取り方と使い方」だと思うから、確定申告は年に一度税金について考えざるを得なくなるよい機会だとは思うのだが、とにかく憂鬱だから、つい後回しになる。申告期間が始まると、タレントなどが一日税務署長などに扮して「申告はお早く。e-taxもありますよ!」「税金はとられるものではなく納めるもの」などと提灯持ちをつとめるので、つい、「あんたら自分で申告書を書いたことあるの?」「e-taxは準備がたいへんなんだよ」「罰則があるんだから納税じゃなくて徴税だよ」などと毒づきたくなる。

 憂鬱になる理由の第一は前記の投書にもあるように、申告の煩雑さだ。サラリーマン時代は企業が年末調整で代行してくれたし、企業主だった頃は税理士任せだったから申告書書きとは無縁だった。それで、個人で確定申告をすることになった最初の年は、なじみの税理士さんに頼んだのだが、戻ってくる税金よりも手数料の方が高かったので、2年目から自分でやることにした。

 その時はじめて、収入と所得とは違う概念だということを知った。収入から経費や各種の控除を除いたものが所得で、それに5%から40%の累進税がかけられるという仕組みになっている。私の場合は年金以外は印税が主たる収入だから、経費を計算するためには、その印税を得るために使った書籍代とか通信費、文房具代などの領収書を保管しておかなければならない。引出しひとつをそのための専用にしているので、そこへ1年間領収書を放り込んでおく。確定申告書作成の仕事は、これらを分類整理して総額を計算することから始まる。先の投書の主が嘆いているように、これが結構大変なのである。まず、領収書の大きさが千差万別で、大きさごとに重ねなければならないし、文字もバカに小さくて天眼鏡で見なくてはならないものもあり、その上今年からは消費税が内税であったり、外税であったりして計算機に打ち込むのにやたら時間がかかる。その上、3回くらい験算しておかないと後で税務署につっこまれることになりかねない。事業主だった時、若い税務署員が調査に来て預金通帳を全部調べられたことがある。帰り際に「こんなことやってるヒマがあったら、巨悪に立ち向かえ」と言ってやった。

 消費税の8%は半端だから、10%にすれば業者はまた内税に戻るだろうし、一円玉が増えて困るということもなくなる。そうなると2年後の確定申告は若干楽になるななどと考える。生きていればの話だが。それに、10%にする時は食料品などには軽減税率を適用すると公明党は言っているが、軽減っていったい何%にするつもりなのか。まさか、8%据え置きが軽減だというのではあるまいな。与党内では品目の線引きでもめているようだが、食料品はすべて0%にすべきだろう。イギリスなどではチャンとそうしているから出来ないはずはない。やらないのは、財源が減るのと、とりやすいところかとるという江戸時代とかわらぬ“お上”の発想によるのだろう。

 問題は社会保険費の財源をどうするかだが、富裕税として所得税と相続税の累進性を大幅に高めるのが一番良いとトマ・ピケティも言っている。もともと、食料品など必需品の消費税は逆累進性が高いし、、一種の税金である健康保険料、介護保険料などが他の先進諸国に比べて高すぎるのが問題なのだ。重大な社会問題になっている所得格差や貧困率を少しでも縮めるためには、ピケティさんの言うようにしろと言いたいところだが、「格差が拡大しているかどうかは一概に申し上げられない。」などと言っている人物が政権を握っている限り、絶望的だ。

 つまり、私の憂鬱の第2の理由は,極めて「不公正」な税制とその決定のあり方、それに絡む利権や見返りとしての政治献金などの巨悪なのである。

 年金以外の収入である印税は、60代から70代にかけて、毎年1冊、10年間で10冊の本を書き上げた、文字通り鏤骨砕身の結果であるからピケティさんの言う gである。税率は10%だ。一方今年は株がだいぶ値上がりしているので、数年前に50万円で買って塩漬けにしておいた沖電線などの株を売ったら65万円になっており、NISAだと15万円の利益には税金はかからない。この15万円は r である。r は g の数倍になることもあるというピケティ理論の一端を実感した。

 こういう不公正税制は、毎年、年末に決定する税制大綱で決まるのだが、決めるのは自民党税制調査会と政府の税制調査会である。党税調は、選挙を意識した族議員と業界団体のなれ合いの場であるし、内閣府の政府税調は、有識者の雑談会で、日本の税制の決定過程の透明度は先進国中最低だといわれる。この伏魔殿で何がどう決められているのか庶民には知る由もないのである。

 「格差は不公正な税制の結果である」と喝破したピケティさんのおかげで、先に引用した「資本主義の終焉と歴史の危機」の著者である水野和夫日大教授や三木義一青山学院大学教授らを座長とする民間税調が誕生した。健闘を祈るが、鉄桶のような既得権益の壁をどこまで崩せるか。また、“公平・公正な社会の実現”を謳って来年からいわゆるマイナンバー制(またの名を国民総背番号制)が導入されるが、既得権層の資産がどれだけ把握出来るのか。“クロヨンあるいはトーゴーサン”といわれる所得の捕捉率はいまだに是正されていないのである。その上、資産を持つものや儲かる企業は海外にカネを貯めこんでいる。“Tax Haven” は今や花盛りだという。先日(2月24日)の連ドラ「マッサン」で久しぶりに”非国民”というイヤな言葉を聞いたが、tax haven に逃げ出す連中は文字通りの”非”国民ではないか。などと鬱屈を発散させながら、なんとか確定申告書を書き上げ、証憑書類をまとめ上げた。

 とにかく税金について考え始めると腹の立つことばかりだから、憂鬱になる。出来上がった確定申告書は、すぐに近くのポストに放りこみ、ああ、せいせいした。と思ったら、政府の補助金(税金)を受けた企業から政治献金もらったという政治家が現職の閣僚だけで4人はいるというのだから、あきれるほかはない。庶民の苦労をよそに、法網をくぐって税金を食い荒らす巨悪の尻尾がちらつく。(M)

< 参考書籍等 >
* アベノミックス批判 : 伊東光晴  岩波書店
* トマ・ピケティ「21世紀の資本」に佐藤優が迫る : AERA 2015−2−23
* 主権者として税制を決めよう : 三木義一 これからどうする  岩波書店