Archive for 3月 23rd, 2015

文科省は3月17日、高校3年生を対象とした英語力調査の結果を公表しました。調査は国公立高校の約1割に当たる480校で実施され、3年生約7万人を対象とし、「読む、聞く、書く、話す」の4技能それぞれについて、CEFR(国際標準規格)の基準で、学力中学レベル(A1:英検3~5級程度)から海外大学留学に必要なレベル(B2:英検準1級程度)のどの段階に相当するかを調べました。その結果の概要は次のようです。

「読む」の結果:平均点は129.4点(満点320点)で、中学校レベルのA1(英検3~5級程度)が72.7%、国際指標で日常の範囲で単純な情報交換ができるとされるA2(英検準2級程度)に達した者は25.1%、英語圏で暮らせるとされるB1(英検2級程度)およびB2(英検準1級程度)に達した者はそれぞれ2.0%、0.2%であった。

「聞く」の結果:平均点は120.3点(満点320点)で、A1レベルが75.9%、A2レベルが21.8%、B1およびB2に達した者はそれぞれ2.0%、0.3%であった。

「書く」の結果:満点は140点で、15点以下が55%にのぼり、0点の者が約30%いた。A1レベルが86.5%、A2レベルが12.8%、B1は0.7%、B2は0.0%(5人)であった。

「話す」の結果:調査校ごとにそれぞれ1クラスの抽出実施で、A1レベルが87.2%を占め、A2は11.1%、B1は1.7%であった。

高校3年生を対象としたこのような調査は初めてのことで、その結果は英語教育関係者の関心の高いものと思われます。ただしこの調査は、その対象が国公立の高校に限られているので、完全なものとは言えません。しかし4技能のそれぞれについて分析が可能なように設計されていることから、現時点で実施しうる最善の調査だと言えます。

さて上記の調査結果ですが、予想した以上にわるい結果だと思う人が多いかもしれません。筆者はほぼ予想した通りだと思っています。高校の授業になんとかついていける生徒は、いろいろな状況を勘案すると、たぶん10%~20% の間と推定していたからです。調査を実施した文科省の方々はこの結果に驚いたのではないかと思います。高校3年生で中学程度の英語力しか持たない生徒が「読む」で72.7%、「聞く」75.9%、「書く」86.5%、「話す」では87.2%にも達しているからです。つまり、この調査の結果が信頼できるものとすれば、高校3年生の72.7%~87.2%(4技能を平均すると約80%)の生徒が中学レベルの英語力しか持たないということです。他に信用できるデータが存在しないかぎり、この実態が現実であると考えるしかないでしょう。

もっと心配なことがあります。中学校レベルと言っても、今回の調査ではA1レベル(英検3~5級程度)が一つの枠に入れられているので、その中身が分かりません。英検3級と5級では大きく違うので、中学卒業どころか、それにも達せずに高校を卒業する生徒が相当いるものと推測されるのです。文科省もただ驚いているのではなく、さらに進んで、中学レベルの英語力しか持たない高校生の実態をも明らかにし、その対策を探ってほしいものです。

以上の高校3年生の英語力の実態を踏まえて、文科省はどのように対策を立てるべきでしょうか。第1に必要なことは、近年の英語教育の目標として謳われている「英語によるコミュニケーション能力の育成」を見直すことです。この目標が学習指導要領に掲げられたのは、平成元年(1989)の改訂版でした。そこで初めて、「外国語で積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育てる」という文言が目標の中に組み込まれました。それ以後の改訂において、この目標は英語科の中心的位置を占めるようになって現在に至っています。しかしこの目標が掲げられてから25年を経過した現在、文科省も英語教育関係者も、この目標が絵に描いた餅になっている現状をしっかりと認識する必要があります。

なぜそうなったのか?—その原因究明は容易ではないでしょう。しかし文科省は真剣にその原因を究明すべきです。こうなったのには理由があるはずです。筆者の考えでは、現代における英語学習の目的が多様になっていることが最大の原因であるように思われます。学ぶ生徒も多様であり、教える教師も多様であり、英語を学ぶ(教える)目的や方法も多様です。「コミュニケーション能力の育成」という単一の目標によって、日本中のすべての英語の授業を統一するなどという考えは、現状から遊離した、奇妙なものとしか思えません。

もう一つ検討すべき重要な事柄があります。それは大学入試に民間の英語試験を導入するという文科省の方針です。入試を変えれば高校の英語教育が変わると本気で文科省は考えているのでしょうか。3月17日に調査結果が発表のあった翌18日の朝日新聞の報道によれば、高校生の英語力アップのため、民間の英語試験を大学入試に導入するという文科省方針を後押しする指針がまとまったということです。指針をまとめたのは、試験団体や高校および大学の関係者らでつくる文科省の協議会です。その指針によれば、4技能を測ることのできる民間試験を大学入試に導入することによって、高校生が英語を勉強する動機づけになるというのです。そして高校生が受験しやすいように、各試験団体が受験料減免を検討することや、高校・大学が受験会場として施設を提供することなどを求めたそうです。まるで高校・大学の英語教育が民間の受験産業にまるごと呑み込まれてしまう感じです。

文科省はそのような民間企業の画策から学校を守るべきです。入学試験は、本来、各大学が自主的に入学基準を作成して実施すべきものです。高校生や大学生が英検やTOEFLなどの試験を受けやすくすることが、日本人の英語力アップに貢献すると文科省は本気で考えているのでしょうか。先の高校3年生対象の調査の一部で行ったアンケートで、英語の学習が好きかと尋ねたところ、「そう思わない」と答えた生徒が、「どちらかと言えば」を含めて、58.4%を占めたといいます。A1レベルでは約70% がそのような生徒でした。英語の嫌いな生徒をテストまたテストで攻め立てても、ますます嫌いになるというのが自然な成り行きではないでしょうか。かくて文科省をはじめ、英語教育関係者が寄ってたかって、英語嫌いの子どもたちの増産にひたすら邁進しているというのが、現在の日本における英語教育の実態のように思われます。(終り)