Archive for 2月 10th, 2012

今年1月に行なわれた大学入試センター試験の英語筆記問題には、語彙の知識に関する設問が17問あります。そのうち発音に関するものが7問、語法(語の文法や使い方)や連語・慣用句に関するものが10問です。ここでは、それらが高校までに学習することになっているどんな語彙知識をみようとしているか、またそれらが試験問題として適切かどうか、という観点から検討します。

 そのような検討は、本稿の目的である「自己評価」という観点からは外れるのではないかと疑問に思う方があるかもしれません。しかしここで敢えてそれをするのは、大学入試センター試験は高校生の英語学習に大きな影響力をもつ試験であり、それが語彙知識をどのように捉えているかは、受験生にとっても重大な関心事だからです。なんと言っても、大学入試センター試験は50万人を超える受験者があり、しかもそれは全面的に公開され、その試験問題は主要な新聞紙上にも掲載されます。ですから、それはさまざまな批判を受けて当然であり、学習者に学習の指標を示してくれるような問題へと改善されていくべきものです。

 さて語彙に関する問題ですが、そこで毎年取り上げられる最初の設問は語の発音です。それはAとBの2つの種類から成っています。Aは4つの語の中から下線部の発音が他の3つと異なるものを選ばせる設問で、次の4問から成っています。(1) amuse / cute / future / rude (2) feather / federal / gender / gene (3) enough / laughter / mighty /rough (4) accuse / circumstance / decay / facility

 Bは語の第一強勢の位置を問うもので、与えられた語と同じ位置に強勢のある語を4つの中から選ばせる、次の3問です。 (1) modern [ athlete / career / fatigue / sincere] (2) religion [ calculate / entertain / ignorant / musician] (3) identity [ automobile / disagreement / electronics / geography]

 たしかに、これらは語の発音の知識をみる問題のように見えます。しかし発音の知識とは何でしょうか。それは実際に発音する技能を支えるために必要なものであって、知識自体に意味があるわけではありません。ですから、知識があっても正しく発音できないのでは意味がありません。実際に、この問題に正解した生徒が必ずしも正しく発音できるわけではないという調査報告が多数あります。そしてその逆(この問題に正答を選べなかったが大部分は正しく発音できる)もあり得ます。そういうわけで、この問題形式は発音の問題として適当ではない(つまり妥当性が低い)と多くの英語教育の専門家から批判されています。大学入試センターの問題作成部会もそのことを認識しており、昨年度の報告書(インターネットで検索可能)の「4.今後の問題作成に当たっての留意点又はまとめ」の中に、「リスニング試験の導入から6年目を迎えた現在、発音の知識を問う第1問をこのまま存続させるべきであるかどうか、また引き続き含めるとすればどのような内容と形式が適切なのか、このような問題については広く意見を募り、集約を行ない、より良い方向に向かって検討を続けることが必須であろう」と述べています。これは当然のことながら、問題作成者として健全な態度です。ところが意外なことに、高校の教科担当教員による昨年度の報告書(インターネットで検索可能)の中には、「語の発音や強勢の問題はコミュニケーションの基礎知識として重要なものであるので、出題内容・出題方法を工夫し、今後も継続していただきたい」という要望が書かれているのです。これは見過ごすことのできない重要な問題です。筆者の知るところ、これと反対の意見を持つ高校教師は少なくないからです。

 そこで筆者は、学習者の立場から、この問題を考えてみることにします。結論を先に述べるならば、このようなステレオタイプな発音のペーパーテストはすべての入学試験問題から排除してほしいと思います。その主な理由は、第1に、それがテストとしての信頼性に欠けているからです。英語学習者はよく知っている語についてはそれを正しく発音でき、まったく知らない語についてはどう発音するか分からないことが多いのが自然ですから、発音のペーパーテストというのは、出題される語が受験生になじみの語かどうかで難易が決まります。与えられた語の中に知らないものがある場合には、コンテクストも与えられていませんから、受験者はカンで正答を選ぶしかありません。そのカンが当たるか当たらないかはほとんど運まかせです。しかも出題される語の中には、毎年、それほど頻度の高くない語が含まれています。今年の第1問に出題された31の単語では、「JACET 8000」で順位4000を超える語が、rude, mighty, decay, fatigue, sincere, ignorant, automobile, disagreement, electronicsの9語もあります(ただし、最後の2つは派生語なので基本形から類推できます)。これらは決して特殊な語ではありませんが、受験生はこれらのいくつかを高校までの教科書で出合っていない可能性が高いと思われます。したがって、この形式の問題に対処するためにどれだけの語をカバーすべきかが不明であり、受験生は非常な不安を抱いると思われます。英語は得意だけれど、発音のペーパーテストだけは苦手だという受験生の声を筆者も聞いたことがあります。

 第2に、選択肢の作り方の問題があります。このようなペーパーテストで、しかも与えられた選択肢の中から一つを選ぶという問題形式では、選択肢の作り方によって難易が非常に変わります。出題者は問題作成の過程で、ほとんど無意識的に、正答となる選択肢として生徒の誤りやすいものを選び、誤答となる選択肢をできるだけ正答らしく見せかけようと工夫をこらすものです。時には、意地の悪い問題で生徒を悩ませてやろうという心理が働くこともあるかもしれません。今年の発音問題ではBの第3問が特に難しい。選ばれた語が難しいということもありますが、それだけではありません。正答のgeographyは、正しく発音している人でも、その第1強勢が第2音節にあることは意識していないかもしれません。この語の強勢は第1音節にあると誤解をしていたら、この設問は解けなくなります。またelectronicsは第3音節に第1強勢があるのが普通ですが、electronics industryなどのように複合語を作るときは、electronics industryのように強勢を移動させる人もあると思います。語の強勢というのは、他の音声特性と同様、コンテクストから切り離して決めることはできないことが多いのです。

 では、このような発音のペーパーテストにどう備えたらようでしょうか。筆者の受験生へのアドバイスは、このようなテスト問題は無視することです。受験生だけではありません。英語学習者の皆さんへのアドバイスです。その理由はすでに述べたように、こういう問題項目は、第1に発音テストとしての妥当性に欠けています。第2に問題作成者による語の恣意的な選択と、受験生を惑わせようとする巧妙な選択肢の作成によって、テストの信頼度を低いものとしています。学習者はこのような形式のテスト問題に全問正解しようとして無用に悩むことのないようにしてください。もしこのような問題に1つ2つ間違えても、問題が悪いのだと思ってください。(To be continued.)