Archive for 3月 29th, 2012

センター試験のリスニングテスト問題の全般的評価は、筆者の採点では50点以下だと前回書きました。どこがそんなに悪いのか、筆者は今回それを説明する義務があると感じています。

 まず挙げなければならない欠陥はリスニングテストの本体である対話スクリプトにあります。それらはテスト問題25問のうち19問(76%)を占め、17種類のスクリプトから成っています。それらはすべて男女二人の対話で構成されており、受験者は録音された彼らの対話を聞いて、話しの内容について問われたり、対話の先を予測させられたりします。しかも17種類の対話スクリプトはすべて、対話のなされる場面が異なっています。ある場面はだれかの家、他の場面は学校の教室や図書館、路上、鉄道の駅、ファミリー・レストランであったりします。したがってスクリプトに登場する男女の声は同じでも、その役割は場面によって異なります。登場する男女は級友であったり、会社の同僚であったり、親子やきょうだいであったり、先生と生徒であったり、中には夫婦と思われるペアもあります。声だけを聞かされる受験生は、対話ごとにどんな場面か、話している男女はどんな関係かを想像しなくてはなりません。次の対話はどうでしょうか。これはどんな場所での、どんな関係の男女の対話でしょか。

Question No. 7   W: We have to leave at 6 o’clock tomorrow morning.  M: Should I set the alarm?  W: That would really help.

そして受験者は、この最後の発言に対する相手の応答を、問題冊子に印刷された次の四つの選択肢の中から選ぶように要求されます。

① No, never mind. ② No problem. ③ No way. ④ No, you can’t.

 以上に述べた事柄から、このようなリスニングテストの欠陥は明らかです。第1に、受験者は録音された音声がどんな場所での、どんな関係の男女の対話か分からずに耳をそばだてて聴くという、異常な行動を取ることになります。私たちの日常生活でそんなことがそれほどあるでしょうか。もしあるとすれば、盗聴した録音を聴くときです。たしかに、私たちが日常ふと他人の会話を耳にすることはあります。しかしそれは電車の中とか、公園のベンチとか、病院の待合室とか、特定の場面での会話です。そして会話者の人間関係は、その人たちの年齢や容貌や話し方から推定します。しかしここで問題にしているのはリスニングテストです。受験生は、どうしてこんな自分とは関係のない他人の対話を盗聴するような行為を強要さなければならないのでしょうか。そういうわけで、このリスニングテストは通常には存在しない状況設定でのリスニングですから、テストとしての妥当性を著しく欠いていると言わざるを得ません。

 第2に、対話の場面と対話者の人間関係が不明の録音を聴いて、その内容を理解することは大変困難な作業です。英語の先生方はぜひこの録音を聴いてみてください。録音を聴きながら、いちいちそんなことを考えていたら時間がかかって、設問に答えるのに間に合わないでしょう。筆者がこれまで幾人かの受験経験者に尋ねてみたところ、だれもが一様に、深く考えずにそれこそカンで正答を捜すという作業に熱中したと言います。そのような活動が外国語としての英語学習の本質的部分とは思えません。テストの信頼性も当然低いでしょう。

 そして第3に、これらの対話スクリプトの多くが(17種類のスクリプトのうち最初の16)きわめて日常的な内容で、英語をふだん使用する環境で生活する人にとっては容易でも、英語を使用するのがほとんど教室に限られている日本人高校生にとっては、その理解と運用は決して容易ではありません。日本におけるコミュニケーションのための英語教育というのは、英語使用者が日常生活で用いる種類の英語習得を目指しているのでしょうか。センター試験のリスニングテスト問題作成者は、おそらく、そのように考えているのでしょう。しかし筆者の考える英語教育の理念からして、そのような認識は間違っています。

 もう一つ指摘すべきことは、選択肢による解答法です。先に挙げたQuestion No. 7 をもう一度ご覧ください。これは目覚まし時計をセットするかどうかという男女の対話ですが、その最後の女性の発言に対する男性の応答はどれかという問いです。「あなたはどう応答しますか」というクイズならばともかく、「四つの選択肢のうちから一つ選びなさい」というような設問の仕方はおかしなものです。筆者は最初この選択肢を見たとき、対話の状況が分からなくては答えられないと思いました。多くの受験生もきっと同じように戸惑い、結局、消去法によって正解を捜しだすほかなかったものと想像します。これが真っ当なリスニングテストと言えるでしょうか。(To be continued.)