Archive for 9月 10th, 2013

Q1: (中学2年生)英語の単語が覚えられなくて困っています。覚えてもすぐに忘れてしまいます。中学3年間で1200もの単語を覚えなくてはならないそうですが、私には無理なように思えます。単語を覚える良い方法があったら教えてください。

Q2: (高校1年生)高校の教科書には新語が多く、覚えるのが大変です。友人は単語帳を作って覚えていると言いますが、あれって本当に効果があるのでしょうか。

A: 単語を覚えるにはどうしたらよいか? これはおそらくすべての英語学習者にとっての最大の課題です。そして単語を覚えようとして誰もが思うのは、それが多くの時間とエネルギーを消費する根気を要する学習だということ、しかも自分の記憶力が貧弱なことを思い知らされるつらい経験だということです。先の中学生の言うように、覚えてもすぐに忘れてしまうのです。そしてどうして私はこうも記憶が悪いのだろうかと、しばしば嘆くことになります。しかし、単語が容易に覚えられないというのは極めて正常なことなのです。あなたの記憶システムに問題があるわけではありません。このことを初めにしっかり心に留めておいてください。

そこで英語学習を始めるにあたってまず知っておくべきことは、単語の記憶はすべての人にとって難しいということです。例外的に単語の記憶を得意としている人がいるかもしれません。そういう人は記憶すること自体に異常な興味を持っていて、それを自分の特技として発達させた人です。記憶術などを研究している人はそういう特技を持っています。しかし普通の人は単語の記憶などに興味を持つことはできません。できるだけ能率よく覚えたいというだけです。単語の記憶がなぜ面白くないかと言えば、単語というのは恣意的な記号に過ぎないからです。たとえば「本」という物を日本語で「ホン」と呼び、英語で [buk]と呼ぶのには何の必然性もありません。その呼び方は各言語で定められた恣意的な記号なのです。人間の脳はコンピュータと違って、そのような恣意的な記号を記憶することを得意とはしていません。そして人間は残念ながら忘却を防ぐことができません。

さてそのような恣意的な記号である単語を記憶するにはどうしたらよいのでしょうか。Q2の高校生は単語帳を作るのがよいかどうか迷っているようです。まずこの問題から考えてみましょう。単語帳(または単語カード)と言ってもいろいろありますが、いちばんよく見るのは<例1>のように単語の綴りと意味が書いてあるものです。<例2>のように発音記号と品詞を書いて、それも一緒に覚えようとする人もいます。

<例1>memory 記憶  <例2>memory [mém∂ri](名詞)記憶

どちらがよいでしょうか。<例1>では学習者が学ぶのは日本語に対応する英語の単語だけです。後にその単語に出合ったときに、たまたまその語を思い出せれば役に立つこともあるでしょう。単語テストの事前準備としてなら、それが大いに役立つ可能性はあります。しかしその単語がいろいろな場面で使えるようになるかどうかは、依然として疑問です。<例2>のように発音記号を書くのはどうでしょうか。発音記号というのは発音の補助記号ですから、本来それほど苦労して記憶するほど重要なものではありません。発音に特別な注意を必要とする語を除いては、全ての語に発音記号を付すのは無駄な努力です。これに反して「名詞」というような品詞を付記するのはよい工夫です。なぜなら、すべての単語は「品詞」という文法特性を所有しており、品詞の知識なしに語は使えないからです。

さて、こういう単語帳や単語カードを作り続けるにはかなりの時間とエネルギーを必要としますので、先生方の中には、それを作ること自体が単語の学習になるはずだと考える人がいます。また生徒のほうも、出来上がったものを眺めて、自分は真面目に学習に取り組んでいるという自己満足が得られます。しかしその努力の実際の効果はどうなのでしょうか。それで本当に英語の単語を覚えたことになるのでしょうか。

これらの問いに対する納得できる答えを得るためには、意識的な努力によって記憶された単語のリストがどれだけ長く記憶に留まり、その後の個人の言語使用にどれだけ役立つかを明らかにしなければなりません。そこでまず、これまでの研究で確立している「忘却の法則」から始めることにします。人間の記憶には忘却という特性があります。忘れることは人生の一部です。単語の記憶においても、私たちは忘却の法則を免れることはできません。(To be continued.)