Archive for 3月 26th, 2014

今回のタイトルを見て、読者の中には、楽しんで語彙を拡張できる方法があるなんて、とても信じられないと思った方もあるかもしれません。筆者はあえて言います。そういう学び方があるのです。むしろ語彙は楽しんで覚えなければ長続きしません。テストのための勉強ならば、ある限られた数の語を覚えることができれば、目標を達成することができます。しかしその努力の報酬はさほど大きくはありません。なぜなら、テストのために覚えた語彙の大半は、それが終わった後に記憶から失われてしまうからです。ですから、いつもテストだけのために勉強している人は、語彙を学ぶ楽しさを決して味わうことはないでしょう。いくら覚えても、その大部分が失われるとしたら、楽しいはずがありません。学習の目標はテストの先まで見通していなければなりません。英語語彙の学習は、母語の場合と同じように、生涯続くものなのです。そうだとしたら、学ぶことの楽しさを知らない人が続けられるものではありません。

ここで英語の語彙と言うとき、聴いたり読んだりするときに理解できる語彙(passive or receptive vocabulary受容語彙)と、話したり書いたりするときに自分で使用できる語彙(active or productive vocabulary使用語彙)に分けて考えることが必要です。なぜなら、多くの場合、受容語彙は使用語彙よりもずっと大きいからです。いくつかの資料によると、教育のある英語母語話者は5万から10万くらいの受容語彙を持ち、その使用語彙は1万から2万の間と推定されています(注)。外国語として英語を学ぶ私たちは、ふだん英語をほとんど必要としない環境に生活していますので、母語話者と同じ大きさの語彙習得を目指すことは現実的ではありません。私たちはそれぞれの学習目的に応じて、必要とされる語彙のおよその大きさをあらかじめ知っておくとよいでしょう。そしてテストを目標とするのではなく、自分自身の目標がどこまで達成されたかを判定する資料としてテストを利用するのです。そのようにすれば、テストに振り回されずに、自己の主体性を確保することができます。

さらに外国語としての英語学習では、「耳で聴いて理解できても、綴り字を見て意味や発音が分からない語」や「綴り字を見ると分かるが、耳で聞いて理解できない語」、あるいは「口では正しく言えるのに、綴りを書くことができない語」などの現象が生じます。これらは母語の習得過程でも起こるのかもしれませんが、外国語の学習ではこうしたことは珍しくありません。そこで学習者が単語を覚えようとするときには、目的に応じて、次の(a) から(d) までの4種類の活動を意識することが必要です。

受容活動:(a) その語を聴きとり理解するリスニング活動;(b) その語の綴りを見て理解するリーディング活動

使用活動:(c) その語を使って発話するスピーキング活動;(d) その語を使って語句や文を書くライティング活動

つまり、ある単語を覚えようとするときに、ちょっと立ち止まってその語を受容語彙のリストに入れるか使用語彙に組み入れるかを考え、これら4種類の活動の中から必要と思われるものを選び出して実行するのです。言うまでもなく、その活動は覚えようとする単語だけを取り出すのではなく、それを有意味なコンテクスト(語句や文)に入れて行うことが大切です。

さて英語の語彙は膨大であり、学習者が覚えなければならない語彙もかなりの大きさです。適当な大きさの辞書を選んで一冊覚えることを決意する人もあると聞きますが、たいていの人はそうしたいとは思わないでしょう。丸暗記に関しては、人間はコンピュータには遠く及ばないことが最初から分かっています。人間は自分に必要な情報だけを取り出して記憶することを得意としているのです。まず現在の自分の獲得目標とする語彙リストを眺めてください。それは基本3,000語のリストであったり、大学受験のための5,000語のリスト、あるいはビジネスに必要な8,000語のリストであったりするでしょう。すると、そのリストのすべての語に同じだけのエネルギーを注ぐ必要がないことが分かります。つまり、覚えやすい語と覚えにくい語とがあるということです。そこで、語彙リストを覚えやすいものと覚えにくいものとに分類すると、どこにエネルギーを集中すべきか、どこでエネルギーを節約できるかの見通しを得ることができます。それができれば、気分的にも、語彙の拡張を楽しんでできるようになるはずです。次回にはそんなことをもっと具体的に考えてみたいと思います。(To be continued.)

(注)このことに関してはいくつかの資料がありますが、ここでは主としてLongman Dictionary of Language Teaching & Applied Linguistics, Third Edition (2002)を参照しました。