Archive for 4月 12th, 2012

これまで3回にわたって大学入試センター試験のリスニングテストを批判し、今後それをどのように改善すべきかの方向を示唆しました。要約すると次のようです。第1に、英語母語話者の日常会話を題材とした対話スクリプトを30%以下に減らすこと。第2に、日本人高校生の身近な話題についての平易なスピーチや文章をもっと多く取り上げること。第3に、話の中に出る些末な事柄を問うのではなく、スクリプトの中心的メッセージが聴き取れるかどうかを問う問題にすること。第4に、全般的に素直で平易な問題を作成すること。選択肢についても作り方を工夫し、テストの平均値を60%くらいに引き上げること。

 そこで本題の自己評価の問題に戻ります。学習者は自分のリスニング力をどのように向上させ、それをどう評価したらよいでしょうか。しかしこのことを考えるには、そもそも「リスニング力とは何か」、「高校修了段階でどんなリスニング力養成を目指すのか」を明確にしないと、話は堂々巡りをしそうです。筆者がセンター試験のリスニングの中身に異議を唱えるのも、高校卒業者に期待するリスニング力が、筆者とセンター試験問題作成者とで大きく違っていることにあります。センター試験のリスニングテストは、日常的コミュニケーション能力(つまり会話力)を身につけることを第一の目標としています。そのことは、今年のリスニング問題が25問のうち少なくとも16問(64%)で日常的会話を題材としていることから明らかです。

 筆者は最近のブログで次のようにセンター試験のリスニングテストを批判しました。「・・・対話スクリプトの多くが(17種類のうち最初の16)きわめて日常的な内容で、英語をふだん使用する環境で生活する人にとっては容易でも、英語を使用するのがほとんど教室に限られている日本人高校生にとっては、その理解と運用は決して容易ではありません。センター試験のリスニングテスト問題作成者は、おそらく、そのように(つまり、日本人も母語話者の日常使用する英語を学ぶべきだと)考えているのでしょう。しかし筆者の考える英語教育の理念からして、そのような認識は間違っています。」以下に筆者がそのように考える理由を述べます。

 高校卒業者はまだ英語学習の初級を終えた段階にあります。これから中級段階に入るところです。ですから、あらゆる種類の英語を聴き分けることはできません。小・中・高での1000時間程度の英語授業数できることは限られています。初級段階では、古くから言われているように、きちんとした英語を学ぶべきです。「きちんとした英語」という言い方は曖昧ですので、もう少し明確にする必要があるでしょう。それはもちろん、日常生活で使うようなくだけた表現をすべて排除するということではありません。たとえば、中学校の英語学習で日常的な生活で使う英語から入るのは自然なことです。しかし、いつまでも “How are you?” “Fine, thank you. And you?” のような英語ばかりでは芸がありませんし、英語のスピーカーが世界中でそんな挨拶ばかりしているわけでもありません。余談ですが、かつて筆者がロンドンにいたとき “How are you?” と挨拶すると “How do you do?” と返す人が何人もいました。そしてそのようなこともいくらかは知っているほうがよいでしょう。しかしそのような表現をたくさん覚えることが、学校教育の目的ではないと筆者は考えるのです。もっと内容のあることを英語で表現できるようになること——そのほうがずっと重要だと思うのです。英語の叙述文は原則として主語と述語を備えています。ですから、まずそういうセンテンスの構造と表現に習熟することが重要であり、それが英語学習の基本です。もちろん、それぞれのセンテンスがどういう状況で使われるのかを知る必要があります。そして高校段階で重要なのは、そういうセンテンスが集まって一つのまとまりをなす文章やディスコース(スピーチなど)を、はっきりと聴き取れるようにすることです。

 中学生や高校生が学校で学ぶ英語は、日常会話に使われる英語などよりも、彼らが学校の授業で学ぶさまざまな話題に関する英語のほうが、ずっと身近ではないでしょうか。一般に、人々が家族や友人と話すときの言葉と、学校の教室で使う言葉は、はっきり違います。英語の授業では、言語や文化、人間や社会や自然などに関する多くの話題が取り上げられるはずです。そしてそれらについて、先生の話す英語を聴いたり、教科書の英語を読んだり、英語で問答をしたり、感想を述べ合ったり、ディスカッションをしたりします。そしてそこで使われる英語は、日常会話で使われる英語よりも、ずっときちんとした形の英語のはずです。中学・高校で学ぶリスニング活動は、そういう英語を聴き取ることが中心だと筆者は考えるのです。(To be continued.)