Archive for 12月 3rd, 2011

<TPPを考える ①> 松山薫

① 賛否の意見

TPP(the Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement環太平洋戦略的経済連携協定)については、昨年(2010年)10月1日の臨時国会冒頭、菅直人首相が所信表明演説で突然、交渉への参加検討を表明し、1ヵ月後のAPEC(the Asia-PacificEconomic Cooperation Conference アジア太平洋経済協力会議)横浜首脳会議で「日本は再び大きく国を開くことを決断した」と発言して世間を驚かせた。その後の政争でTTPは一旦棚上げされたように見えたが、今度は後継の野田佳彦首相が、突然、2011年11月のAPECハワイ首脳会議までに結論を出したいと発言し、国論を2分する論争が始まった。国会議員の大部分さえTTPの内容を知らなかったのだから、一般の国民が分かるはずもない。私自身の知識もいい加減なものだった。論議不足どころか、ほとんどまともな論議はなかったわけで、APECハワイ首脳会議直前の11月11日、急遽、衆参両院で6時間にわたってTPP集中審議が行なわれた。またNHKは首脳会議後の18日、「TPPどうなる日本、参加すべきか否か」と題する特別番組を放送し、新聞もあわてて特集などを組んでいる。そこで、まずは、これまでの論議を聞き、特集記事を読んでみて、私なりにまとめた賛否両論を列記する。議論はまだ始まったばかりであるが、現段階でどの意見に賛成か、ためしに、番号に丸印を付けてみてください。

〔Ⅰ〕賛成論 

① 交渉参加の手続きに関する意見

1.交渉参加は遅いくらいだ。既に後れを取っている。交渉に参加しなければ十分な情報はえられない。
2.交渉に参加してルール作りに意見を反映させなければ後々不利になる。
3.参加国それぞれに国内に保護すべき問題があり、だからこそ交渉によって解決しようとしているのである。
4.日本の立場を明確に示せと言うが、交渉に入る前に手の内は見せられない。
5.野田首相は参加を表明したわけではなく、“参加国との協議に入る”と表明しただ
けだ。
6.交渉の中で農業、医療分野など日本の国益は断固守り抜くと野田首相が言っている。
7.野田首相がオバマ大統領との会談で、全ての項目を交渉にのせると伝えた事実はないと言っている。

② TPPに対する立ち位置

8.日本は貿易立国で生きてきたし、資源に乏しい日本には、加工貿易以外に選択肢はない。
9.貿易立国のためには、自由貿易が必要。これまで自由化で日本が損をしたことはない。
10.競争のないところに発展はない。世界で競争することが国の発展につながる。
11.少子高齢化で縮む国内市場は、海外で補うしかない。
12.世界経済、特にアジアの成長を取り込んで、産業の空洞化を防ぐ。
13.自由化交渉に入らなければ日本は孤立する。農業も外へ打って出よ。
14.これからも参加国は増えるし、ベトナムとマレーシアに期待している。
15.このままではアメリカとFTAを結んだ韓国に対米輸出で一方的に敗れる。
16.TPPはAPECが目指すFTAAP(Free Trade Area of the Asia-Pacific)の一環であり、これに参加しなければ、アジア太平洋地域での貿易自由化の動きから取り残される。
17.TPPをテコにEPA( economic friendship agreement 経済連携協定)の自由化度を増すことが出来る。
18.米中の間に立って、日本は積極的にアジアをリードすべきだ。
19.米中のはざ間で日本はどう生きるか、安全保障のことも考える必要がある。

③ 内容に関する意見

20.日本農業の再生はTPPとは関係なく重要課題として考えるべきだ。
21.TPPこそ日本農業再生の機会となる。
22.コメの関税が0になると決まっているわけではない。交渉次第。
23.輸入品が安くなれば消費者は助かる。
24.ISD条項(investor state dispute settlement clause)は日本企業の海外進出にとって有利になる。
25.ISDなど問題の分野はあるが国内法で規制すればよい。
  
〔Ⅱ〕反対論 

① 手続き論

1.国のあり方を変える可能性があるのに論議が極めて不十分。
2.日本のとってのメリット、デメリットを国民に説明した上で、交渉に入れ。
3.歴史的に見て日本政府の外交交渉能力に疑問を持つ。 4.一旦交渉に参加しておいて、途中で脱退することが可能なのか。可能だとしてもそのためのデメリットを計算しているのか。
5.”関係国と協議を始めるという”ことは、交渉に参加するということではないと理解している。いわば、事前協議だ。
6.野田首相は、オバマ大統領との会談で、全ての項目を交渉の議題とすると表明したとアメリカ側は言っている。事実出なければ、何故訂正を求めないのか。
7.ISD条項〔投資家保護条項〕国内法より、国際法が優先されるから、国内法で規制は出来ない。

② 立ち位置

8.日本産業の空洞化は、ドル安・円高が原因でTPPは関係ない。
9.中国、韓国、インド、インドネシアが入っていないのにアジアの成長が取り込めるのか。
10.マスコミの報道が偏っている。(TPP参加賛成論が多い)
11. 内閣府の試算では、TPPに参加しても、GDPは年2,700億円しか増えない。
12.2国間協であるFTAや従来のEPAの方が日本の利益を守りやすい。
13.TPP参加国、参加表明国国の中では、アメリカと日本の経済規模がとび抜けって大きく実質日米交渉になり、これまでの日米交渉と同じく、アメリカの要求をおしつけられる。
14.強国の横暴を防ぐには、WT0(the World Trade Organization 世界貿易機関)のような多国間交渉の方がよい。
15.日本は十分に開かれている。これ以上は不要。
16.アジア重視と言うならば、日本は、アメリカではなく、もっと、ASEAN( the Association of Southeast Asian Nations 東南アジア諸国連合 )を初め、アジアとの連携を強めるべきだ。
17.アジアの参加国の経済規模は小さく、アジアの成長をとりこむこのにはならない。
18.EUの現状を見れば多国間の経済連携の難しさが分かるはず。
19.アメリカ的自由競争主義が持ち込まれ貧富の格差がますます拡大する。
20.韓国では対米FTAの締結で、農民、学生を中心に激しい抗議行動が起きている。
21.多国籍企業・巨大企業を利するだけ。

③ 内容

22.TPPに加入すると日本の農業、畜産業、酪農業は壊滅的被害を被り、食糧自給率は13%に下がる。食料安全保障はどうなるのか。
23.世界に誇る日本の国民皆(医療・介護)保険制度が崩れる。
24.TPPはアメリカの雇用対策の一環で、日本は利用されるだけ。
25.ISD条項でとんでもない賠償を請求されかねない。
26.公共事業の自由化に地方自治体の多くが反対している。
27.日本からの輸出増よりアメリカからの輸入増の方が多くなる。
28.安い輸入品の増加によってデフレがさらに進む。
29.ISD条項(投資家保護条項)によって経済主権が侵される。野田首相がISD条項についてよく理解していなかったことが国会の集中審議で暴露された。

① はTPPをどう考えるかの総論 ② は手続き論  ③ は各論である。

ご覧のように、本来最も議論の対象になるべき③が最も少ない。つまり、よく分からないのである。内容がよくわからないのに、あわてて総論で賛成したり、反対したりすると後で臍をかむことになる。このところ、新聞の特集などで、内容についての解説が少しずつ出始めている。
次回からは、賛成・反対の意見についてデータ等を付して検討し、最後に私の意見を述べます。(M)