Archive for 12月 10th, 2011

< TPPを考える ② >

② TPPの底流

 TPPを考える時に重要な視点のひとつは、それがアメリカの世界戦略の中でどのような位置づけになっているかという点である。そこで、TPPをめぐる底流として、戦後のアメリカのアジア戦略とアジアにおけるブロック化の歴史を振り返ってみる必要があると思う。

 太平洋戦争以前は、日本を除き、アジアのほとんどの国は欧米列強や日本の植民地或いは実質的保護領であった。当時の大日本帝国は、アジアの植民地に潜在する民族独立願望を利用して、いわゆる“大東亜共栄圏”を形成しようとした。共栄を標榜しながら、実は石油を初めとする資源の獲得が目的であることを見透かされ、この構想は敗戦とともに消え去ったが、結果としてアジアの諸国は独立を達成した。宗主国であった英、仏、蘭のヨーロッパ勢力は後退して、太平洋戦争の勝者であるアメリカのアジアにおける覇権が確立した。

 しかし、アメリカにとってアジアは、あくまでヨーロッパ正面の対ソ・東欧第一戦線を補完する第二戦線であり、その戦略目標は共産中国の封じ込めであった。とくに中国の影響が中国仕込みのホーチミン率いる北ベトナムを通じて東南アジアに広がることを恐れた。いわゆるドミノ理論である。ドミノ倒しを防ぐためとしてアメリカは、旧宗主国と語らって、1954年、SEATO(東南アジア条約機構)を結成した。つまりは、第一戦線におけるNATO(北大西洋条約機構)のアジア版である。だが、SEATOは、旧宗主国と独立間もないアジア諸国の寄り合い所帯であったため、ベトナム戦争において機能せず、1975年、アメリカは敗てれベトナム社会主義共和国が誕生した。しかし、ドミノ倒しは起きなかった。アメリカはアジアにおける民族主義の高まりを2重に見誤ったのである。

 欧米主導のSEATOに対し、東南アジアの内発的な動きとして、1967年、タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピンの5カ国により、ASEAN(東南アジア諸国連合)が結成された。ASEANはボルネヲ島の旧イギリス植民地をめぐるインドネシアとマレーシアの対立から、意図的に、政治、外交、安全保障などの戦略的要素を排除したため、米ソの冷戦中は、ブルネイが加盟しただけで、ほとんど存在感を発揮できなかった。ASEANは、冷戦終結後の1990年代に入って社会主義国であるベトナム、ラオス、カンボジアのインドシナ3国とミャンマーを加えて、ASEAN-10となってから、域内人口6億人を擁する無視できないグループに成長した。

 中国もまた冷戦終結とともにASEANとの関係改善に乗り出し、1997年には初のASEAN+3(中国、日本、韓国)首脳会議の開催に成功した。ASEAN諸国には多数の華僑が存在し、経済の中枢を担っているところもあり、中国は急速にASEANのとの結びつきを強めていく。ASEANはさらに、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えたASEAN+6によるアジア・オセアニアの経済連携協定を視野に入れて行動を開始した。
           
 一方、ベトナム戦争によって東南アジアへの影響力を大幅に減殺されたアメリカは、アジアの同盟国である日本を通じてアジア戦略の立て直しを図った。これに応じて大平正芳首相が提唱したのが、環太平洋構想(the Pacific Basin concept)、つまり、アジア、オセアニア、アメリカ大陸を包含する経済連携構想であり、これがAPEC(the Asia-Pacific Economic Cooperationアジア・太平洋経済協力)の源流になったといわれる。APECは1989年、日、米、加、豪、ニュージーランドとブルネイが参加して発足した。その後、ASEAN諸国や中国、ロシア、メキシコ、ペルー、台湾、香港などが加入し、現在は21の国と地域で構成されている。このうちTPPの交渉に参加しているのは、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、米、豪、マレーシア、ベトナム、ペルーの9カ国で、日本とカナダ、メキシコが参加を希望している。

 野田首相によると、TPPはAPEC全体をFTAAP (the Free Trade Area of the Asia-Pacificアジア太平洋自由貿易地域) に発展させる最初のステップであり、事実上のリーダーであるアメリカはTPPの門戸を中国を含め、全てのAPEC諸国に開いているというが、中国は招待されていないと主張している。私見では、中国がTPPに参加することはないと考える。なぜならば、TPPに参加すれば、中国共産党によるすベての統制が協定違反とされ、独裁国家として成り立たなくなってしまう可能性があるからである。したがって、中国はASEAN+3を軸にアジアのブロック化を進める一方APECに留まってアメリカの戦略的意図を牽制するだろう。 
                   
 アメリカのオバマ大統領は、11月17日オーストラリア議会で行った演説で「アメリカは、今後の安全保障政策でアジア・太平洋地域を最優先に位置づける」と宣言した。この宣言は、アメリカが戦略の軸足をヨーロッパからアジア・太平洋へ移し、中国を世界戦略上の主目標として21世紀の覇権をかける主戦場とすることを示唆したものではないかという見方も出ている。(M)