Archive for 1月 14th, 2014

英語を学んで筆者がいちばん良かったと思うことは、英語を通して心の世界を広げることができたことです。英語を使って直接コミュニケーションできる範囲は限られています。しかし新しい言語を知ることによって、私の心は無限のかなたに広がります。もし英語を知らなかったとしても、私は私なりに、小さな世界を生きることはできたでしょう。しかし私の心は日本の中の芥子粒ほどの小さな世界に閉じ込められて、そこから決して外にはみ出さないように用心しながら、注意深く生きなければならなかったでしょう。それはそれで価値ある人生ではあったかもしれません。しかしより大きな世界の存在に気づいた今は、そのような人生を過ごしたいとは思いません。ましてこれからの世界を生きる人々は、そういう小さな人生を自らの意志で選択する自由を持ってはいても、実際にそうする人は少ないのではないでしょうか。

今や私たちは世界中から情報を瞬時に得ることのできる時代になりました。インたタ—ネットを使えば、世界中から様々な情報が直ちに入ってきます。それらの情報の多くは誰かが日本語に翻訳してくれるので、日本語でもおよそのことは知ることができます。しかしそれらはあくまで翻訳による二次的な資料ですから、真偽のほどは確かではありません。翻訳には必ず翻訳する人の解釈が反映されるからです。

翻訳が二次資料にすぎない例を挙げます。安部首相が昨年末に靖国神社を参拝して中国や韓国を怒らせました。安部さんはそのことを承知の上で実行したのでしょう。しかし彼の行動は同盟国と考えている国をも怒らせました。米国は “disappointed” という語で安部さんの取った行動を公式に批判したのです。安部さんはそのことまでは想定していなかったのでしょう。この英語は日本語では「失望した」と訳されますが、それは「期待していたことが裏切られた」という気持ちを含意する強い非難を表わす言葉なのです。筆者はこの語を聞いてすぐに辞書にあった次の例文を思い浮かべました。

I’m disappointed in you – I really thought I could trust you.(Oxford Advanced Learner’s Dictionary

安部さんは米国のこのコメントを重大なこととは考えていないのかもしれません。しかし米国政府に与えたこの失望感と不信感は、おそらく当分の間(たぶん安部政権が続く間)消えはしないでしょう。英語の “disappointed” は日本語の「失望した」や「がっかりした」という一時的な感情よりも、ずっと深刻な感情を表わす語なのです。

心の世界を広げるためには、自分の心を広く世界に開放しなくてはなりません。最も警戒すべきなのは偏見(偏った信念)です。特に自分だけが正しく、自分以外の者は間違っているという信念は最も危険です。それがあると人間の心は自由を失い、物事をありのままに見ることができなくなります。最近の日本は隣国である中国や韓国と政治的に緊張関係にあります。これは悲しいことです。隣人とうまくやっていけない人が平穏な生活を保障されないように、隣国とうまくやっていけない国が健全であるとは思えません。安部政権はその点で危険な政権と言わざるを得ません。私たち一般の日本人は、安部さんの政治信念に左右されることなく、隣国とは偏見のない付き合いを続けたいものです。中国や韓国との長い付き合いの歴史を顧みれば、彼らが隣人としていかに尊敬に値する人々であるかを容易に知ることができます。私たちの心の世界を広げるには、まず自分だけが正しいとする間違った信念をただす必要があります。

私たちは今英語の学習に焦点を当てていますが、心の世界をもっと広げるためには、英語だけにこだわっていてはいけません。なぜなら世界には数千の言語が存在し、英語はその中の一つにすぎないからです。日本では外国語というと英語だけしか念頭になく、英語を知っていれば世界のどこでも困らないかのように考えている人がいるようです。しかしそれは偏見に基づく幻想です。英語は世界で最も広い地域で通用する言語ではありますが、それだけで世界の果てまで知ることができるわけではありません。英語は世界の言語への入口にすぎません。筆者は最近、黒田龍之介著『世界の言語入門』(講談社現代新書)という小さな本を持ち歩いて、散歩の途中やバスを待っているときに拾い読みをしています。これは世界の90の言語について、それぞれ2頁で紹介しています。その多くは名を聞いたこともない言語ですが、それらが世界のどの地域で使われるどんな言語かを簡単に紹介しています。それらを読んで、筆者は地球の片隅で使われている小さな言語に思いを馳せ、そこに住んでいる人たちの生活を想像します。それは私を未知の世界に誘い、私の心の世界を広げてくれます。(To be continued.)