Archive for 1月 20th, 2014

私たち日本人はなぜ英語を学ぶのでしょうか。学校の必修科目だからでしょうか。それとも私たちはみな英語を必要としているからでしょうか。必要だとすればどんな必要があるのでしょうか。まず、最初の必修科目ということについて考えてみます。

日本の中学校では英語が必修科目になっています。高校は制度としては選択科目ですが、実質的には必修です。高校に入って英語は学びたくないと言い張っても、ふつうは許されません。加えて、最近の文科省の発表によれば、小学校5・6年生で現在行われている「外国語活動」が数年後には必修教科になるそうです。「外国語」は実質的に「英語」になるでしょう。そこでは学ぶ子どもたちに選択の余地はありません。好むと好まざるとにかかわらず、英語は小学校から必修科目となります。もっとも、小学生や中学生に英語を学ぶかどうかを選択させるのは無理かもしれません。必修でよいという考え方もあります。しかしなぜ英語なのでしょうか。他の外国語ではいけないのでしょうか。

これを正当化する議論は、英語は今や国際語であり、ますますグローバル化しつつある世界においていわばリンガフランカ(共通語)の役目を果たしているというのです。これからの日本人は、少なくとも英語は使えるようになることが必須だという考えです。たしかに英語をまったく知らないと不便なことがあるでしょう。しかし一方では、前回にも述べたように、世界のすべての人々が英語を使えるわけではないのだから、英語以外の言語を学ぶ人がもっとあってよい、否、あるべきだという考えもあります。筆者も後者に与します。英語だけが外国語ではないのです。

ここで世界の大言語と言われるものをしらべてみましょう。「大言語」とは母語話者人口が大きい言語のことで、必ずしも重要度が高いということではありません。人口の大きい順に10までの言語を挙げると次のようです(人口はウィキペディアによる推計値)。

①中国語:13億7000万、②英語:5億3000万、③ヒンディー語:4億9000万、④スペイン語:4億2000万、⑤アラビア語:2億3000万、⑥ベンガル語:2億2000万、⑦ポルトガル語:2億1500万、⑧ロシア語:1億6000万、⑨日本語:1億2500万、⑩ドイツ語:1億0500万。

いかがでしょうか。このようなリストを初めて見た方は、ヒンディー語やベンガル語などあまり耳にしたことのない言語名に驚かれるかもしれません。また、「おやフランス語がない」と不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。大学でフランス語を第2外国語として学んだ方も少なくないでしょうから。残念ながらフランス語の母語人口は約7000万で、10番までには入らないのです。ドイツ語がかろうじて10番に入ったのは幸運でした。

さてこのように、英語以外にも大きな母語人口を抱えている言語が多数あるにもかかわらず、日本の外国語教育はいつまでも英語一辺倒です。本当にそれでよいのでしょうか。文科省は英語以外の外国語を完全に無視しているわけではないようです。高等学校学習指導要領の総則には、必要に応じて「学校設定科目」を設けることができることになっていて、実際に中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語などの外国語科目を設定している高校もあります。しかしその数はきわめて少なく、文科省が英語以外の外国語教育を積極的に進めているとはとても思えません。

わが国の小学校・中学校・高校における外国語教育が英語だけに偏り、他の外国語がほとんど無視されている状況は、学習者にとってまことに不幸な状況と言わざるを得ません。これからの世界を生きる子どもたちには、英語以外の外国語を学ぶ権利があります。目を広く世界に向ければ、私たちはそこに多くの言語が存在し、それぞれの言語を使って生活を営んでいる人々がいることを知ることができます。小学校・中学校での教育では、全科目の指導を通じて、そういう事実に目を開かせるべきです。そして、少なくともアジアの近隣諸国の言語のいくつか(中国語、韓国・朝鮮語など)は、第1外国語または第2外国語として、遅くとも高校からは学べるようにしたいものです。大学からは、現在もさまざまな言語を学ぶことができますが、その量と質は必ずしも十分ではありません。国公立の外国語大学が東京外国語大学と神戸市外国語大学の2つだけというのはお粗末ではないでしょうか。他に外国語学部を置いている大学もありますが、国公立の大学では数校に留まっています。これは学生の需要が少ないということが原因となっているのでしょう。しかしその原因を作っているのは、高校での英語一辺倒にあると考えられます。

まだ検討すべき問題はありますが、ここで一応の結論を述べます。小学校・中学校がさまざまな事情から外国語として英語だけを取り上げることについては、現状では致し方のないこととして容認することにします。しかし高校においても外国語科目が英語一辺倒というのは、学習者にとって非常に不幸なことです。これから世界で活躍する若者たちの可能性を減じるからです。これは国家のためにもなりません。そういうわけで、中学生・高校生・大学生の若い方々に特にお願いします。現在の学校における外国語教育が必ずしも万全ではないこと、英語以外にも学ぶべき言語がたくさんあることを知ってください。そして英語以外にもう一つ別の外国語を学ぶとすれば何を選ぶかを考えてみてください。広く世界を知るために、ときどき世界地図を拡げてながめてみるとよいでしょう。すると見たことも聞いたこともない土地や国の名前がたくさんあることを発見するはずです。そしてそれぞれの土地や国で、どんな人々がどんな言語を使って、どんな生活をしているのかを想像してみてください。想像するための資料をインターネットや図書館でしらべてみるとよいでしょう。なかなか見つからないかもしれません。しかしその探索は、きっとわくわくするような知的な冒険となるでしょう。(To be continued.)