Archive for 5月 1st, 2012

リスニングの第2の問題点は語彙と文法力の不足です。語は綴りを見てその意味が分かるというだけではリスニングはできません。その音を耳で聞いて瞬間的に分からなければならない。これは簡単なようでなかなか難しい。やはりたくさん英語を聞いて音に慣れる必要があります。日本人学習者の多くは語を目で見て記憶していますから、発音も綴り字をなぞる癖がついています。 McDonald’s を「マクドナルド」や「マクドナルズ」と日本語読みにされれば分かるけれど、英語の音を聞いてもピンとこないというわけです。

 そういうわけで、リスニングのための語彙を増やすには、すでに視覚的に記憶した単語を聴覚と結びつける練習をする必要があります。しかしいったん綴り字と結びつけて記憶された単語は、音を聞いてもそのまま聞こえてはきません。その音声特徴を身につけるには、自分で発音してみる必要があります。音を注意深く聴き、それを自分の口から出る音と比較することによって、英語はけっして綴り字をローマ字式に発音するのではなく、強勢のある音節を強くはっきりと、そうでない音節を弱くすばやく発音し、時にはほとんど音が消えてしまうこともあることが分かります。自分独りでうまくいかない場合には、信頼できる先生にお願いして、個人的に指導してもらうとよいでしょう。かつて筆者の友人に、大学退職後に「英語発音クリニック」というオフィスをビルに構えていた方がありました。繁盛したかどうかは知りませんが、留学希望者など、クライアントはけっこうあったようです。とにかく、英語の発音に自信のない日本人にとって、どこででも通用する英語らしい発音(ネイティブ・スピーカーの発音でなくてよい)を身につけるのは容易なことではなく、学習者個人の強固な意志とともに、適切なガイダンスを必要とします。

 次に、語は単独で用いるよりも、他の語と連ねてフレーズやクローズやセンテンスにして用いるのが普通です。するとそこに新たな音調が生じ、語のつなげ方の規則(すなわち文法)が発生します。そこでも、聞いて理解するのと読んで理解するのとでは大きな違いがあります。どこがいちばん違うかというと、第1に話し言葉には音調(リズムや抑揚)がありますが、書き言葉にはそれが表記されません。音調は書き言葉の中に埋没します。つまり、書き手は書くときに音調を意識しても、それを表す手段がありません(強勢のある音節や語を太字にするようなことはできます)。第2にリスニングでは音は常に先へ先へと進んでいきますが、リーディングでは必要に応じて視線を上下左右に揺らして確認しながら進むことができます。つまり、耳から聞こえる音は一回きりで消えてしまいますが、目で見る文字は常にそこに存在しており、時間さえあれば繰り返し見られるということです。これらは当たり前のことですが、これら二つが耳で聞く場合と目で読む場合との大きな違いであり、日本人学習者に読めても聞けない人が多い理由を合理的に説明することができます。

 そこで、ある文章を目で読むことを学んだ学習者は、こんどはそれを耳で聞いて理解できるようになるために、語順をひっくり返すことなく、音が入ってくる順に理解していくトレーニングをする必要があります。なぜなら、読むときと違って、聞くときには語順をひっくり返すことができないからです。それと同時に、音を聞くときには必然的に、目で読むときにほとんど考えてもみなかった音調に気づきます。説明文などの場合には音調が意味に影響することは比較的に少ないと思われますが、会話文などでは音調が意味の伝達に大きな役割を果たします。読んで意味の理解できなかった発話が、音声で聞くと分かるという経験はよくあります。そういうわけで、目で読んで理解できた文章を聞いて理解できるようになったら、今度はそれを口に出して音読したりシャドウイングをしたりすることが、英語独特の音調や語順・文法規則を脳の中に定着させるための効果的なトレーニングとなるわけです。

 英語の音調と文法は、知識として理解するのと、それを実際に聞いたり読んだり話したりする技能として身につけるのとでは、大きなギャップがあります。最近の脳科学でも、そのことは脳の活性部位とその範囲が大きく異なることから証明されています。日本人の英語学習者が持っている大きな悩みは、時間がたっぷりあれば知識が利用できるのに、リスニングやスピーキングでは入ってくる音を瞬時に処理しなければならないので、知識を利用する余裕がないことです。英語学習者にとっては、このような、消えていく音を瞬時に捉えて処理する技能を獲得することが最大の課題となります。処理のスピードを増すためには、トレーニングに工夫が必要になります。そこで次回の話題は、発話のスピードにどう対処するかです。(To be continued.)