Archive for 5月 14th, 2012

英語のリスニング力を伸ばすにはどうしたらよいかについて、これまで、①音声トレーニングの方法、②語彙と文法力を身につける方法、③スピードに対処する方法について述べてきました。今回は英語リスニングにおける背景知識の問題を取り上げます。

 英語のリスニングは、聴き取ろうとしているディスコースや文章の話題(トピック)に関する予備知識が内容理解の鍵になります。これはなにもリスニングに限ったことではなく、リーディングの場合にもあてはまります。また日本語の場合にも言えます。私たちは自分のよく知っている話題についての話はすぐに理解できますが、そうでない話題についての話はあまりよく理解できないことがあります。これは当たり前のことのようですが、学校の授業での先生の話やラジオ・テレビのニュース報道を聞くときのことを考えると、私たちはふだん意識はしてはいませんが大切なことです。

 たとえばラジオニュースを聞いているとき、自分の精通している話題についてはよく理解できますが、なじみのない話題についてはよく分からない、または表面的に分かっても深くは理解できないのが普通です。次のAとBの二つのニュースを読んでみましょう(The Japan Times, May 8)。あなたにとってどちらのニュースが理解しやすいですか。

A)  A tornado that ripped through Ibaraki Prefecture on Sunday, killing a teenage boy and injuring dozens of people, cut a path of destruction about 500 meters wide and more than 15 km long, police said Monday.

B)  A drone attack carried out by the CIA in Yemen on Sunday killed a top al-Qaida leader on the FBI’s most-wanted list for his role in the 2000 bombing of the USS Cole warship.

おそらく、多くの人にとってAのほうが理解しやすいでしょう。日本に住んでいれば、この情報は日本語の放送や新聞ですでに熟知しているからです。それに対してBのほうは、読む場合には単語の意味をしらべたり考えたりする時間があれば何とかなりますが、聴き取るのは難しいと感じる人が多いと推測されます。その理由は、このニュースについての背景的知識が乏しいからです。CIAやFBIは知っていても、the 2000 bombing of the USS Cole warship(2000年にイエメンで起きた米国戦艦爆撃事件)を記憶している人は少ないと思われます。このニュースを聞いて「アメリカがイエメンでアルカイダのリーダーを一人殺した」ということが分かれば上出来です。このように英語のニュースでは、既知の情報については理解できても、未知の事柄については理解しにくいということは誰もが経験するところです。

 以上に述べたことから、聞いて理解する活動ではトピックに関する背景的知識をどのくらい持っているかが大きく影響します。明らかに、リスニング力の中にはそういう知識が含まれます。ですから、ニュースを聞いて理解するためにはできるだけ広い範囲のトピックに関心を持ち、それらの知識を蓄えておく必要があります。もちろん、人によって関心を持つ対象は違いますから、すべてのトピックをカバーすることは困難です。しかしリスニング力を向上させたいと思う人は、自分の関心のあるトピックを中心として、その範囲を少しずつ広げる努力をすることが要求されます。良いリスナーとは、耳に入ってくるディスコースの話題について関心を持ち、その背景的知識を話し手と共有できる人です。

 そういうわけで、大学入試などのリスニングテスト問題を作成するのは難しい仕事です。それは言語能力以外の特別な知識を見る問題になってしまわないように、細心の注意をしなければなりません。そうでないと、たまたまそれに精通している受験者が有利になってしまいます。今年のセンター試験のリスニング問題には、英語母語話者がするような日常会話がいくつか入っていていました。筆者は以前、そのような言語経験の有無がテスト結果に作用する恐れがあることを指摘しました。そして会話のディスコースならば、もっと普段の英語の教室でなされるような言語活動を取り上げるべきだと提案しました。

 リスニングの評価に関して、最後にもう一つ検討すべき事項があります。それはセンター試験がやっているような、同じ音声を2回繰り返して聞かせるのは不自然だという指摘があるからです。たしかに、たいていのコミュニケーション場面では話は1回だけ聞くものです。次回はこのことについて検討します。(To be continued.)