Archive for 5月 19th, 2012

<英語との付き合い○22>

NHK-(5) READING

 泊り勤務者は4人ひと組で夜の9時から翌朝10時まで仕事をするのだが、そのうち2人はニュースの編集に当たるので、出稿者は2人となるが、仕事が一段落すると1人は仮眠するから、2~3時間は1人だけで留守を預かることになる。

 時差の関係で深夜は外電が主なニュースソースだ。ニュースデスクの横にはAP. UPI. REUTERS. AFP. TASS, 新華社の合計6台のテレタイプが休むことなくニュースを流しており、大事件が起きれば仮眠者全員をたたき起こすのだが、普段は、外電を適当にちぎっては、後で日本の反響をつけて出稿するために必要なものと、捨てる(discard)ものに分類していくのが主たる仕事である。そこで、否応なく速読の技術を身につけねばならなかった。

 先輩は、速読というのは読むのではなく見るのだという。確かに、黙読していては速度は音読とさして変わらないからパッと見て内容を的確につかまなければならない。通信社の原稿は新聞向けだから、lead そのものが長いのである。速読の技術を教えるところもあるようだったが、私は自分で練習することにした。

 discardされた外電を持ち帰って、ぱっと見て内容をつかむ練習を始めた、通信社の原稿は全部活字体の大文字で書いてあるので、まずはそれに慣れる必要があった。因みに、前回説明したrewriter達が、原稿に手を入れる場合も全部活字体で、筆記体を使う外国人は見たことがなかった。練習を始めてみたものの、leadをパッと見て目を離した瞬間、何も頭に残っていない。そこで、厚紙に縦1cm、横が外電ロール紙の幅の30cmの横長の穴を開けた細長い窓のようなものを作った。これをleadの一行目に当て、それをパッと見て内容をつかむのである。この窓の縦幅を2行分、3行分と広げ、5行までいくのに半年くらいはかかったと思う。

 これをやっているうちに、各通信社の原稿の特徴も分かってきた。外国通信社にはそれぞれ得意の分野や、発信地による信頼度の違いがある。また、by lineという署名入りの原稿は、原則としてニュースには使わないが、背景や独特の分析を知る上で大変役立つこともわかった。

 速読には語彙を増やすことも重要である。知らない単語が多いと、パッと見ても意味が取れないのである。語彙を増やすには、出勤の際の電車の中で英字新聞や英字誌を読むことが役立った。夜勤が多いので電車は空いていた。先ず、Japan Times から始め、Newsweek 、Timeへと進んだ。後輩の中には、電車で英字紙、誌を読むのはなんとなく気恥ずかしいという人もいたが、とにかく電車に乗ったら、直ちに英字紙や雑誌を開いてしまうのである。そうすれば直ぐ馴れて平気になる。最初は30分で一面しか読めなかったものが、1年も続ければ3面までは読めるようになる。そうしたらNewsweekに代え、一週間の往復の電車で全部読めるようになったらTimeへ進む。3年もすれば、それも全部読めるようになる。しょっちゅう出てくる語は当然中核的な語彙になっていく。中核的な語彙を作ることが、読むためだけでなく、聴く、話す、書くためにも決定的に重要なのである。

 精読の機会にも恵まれた。NHKに入ってからしばらくして結婚したのだが、月給の半分は親元へ送っていたから、家内はやり繰りに苦悩していた。結婚祝いに我が家へ来てくれた先輩の1人が、それを知って、自分の請け負っている翻訳を数冊私に回してくれたのである。先輩は兵学校の出身で当時はNHKで唯一人の戦争記者だった。この先輩の紹介で防衛研修所(現在の防衛研究所)の研究会にも参加することが出来、自分自身も安全保障問題を少しずつ勉強していたので、翻訳には何とかとりつけたし、一冊10万円の翻訳料は本当に助かった。専門用語の訳語などは研修所の研究員に聞けばよかったが、不勉強がたたって、それ以外の部分で苦労した。とにかく辞書を引いても、どうもしっくりした訳文にならないのである。それで先輩に相談すると、日本語の辞書では駄目だから英英辞典を使えと教えてくれた。英英辞典などは教師の頃にCODをたまに利用した程度で本格的に使ったことはなかったのだが、American Heritage やWebsterを使ってみて先輩の教えの意味が分かった。とにかく、ァ、これだと思う説明に行きあたることがしばしばあった。英語開眼ということがあるとすれば、私はこれによって開眼したのだと思う。最近はWeb上の辞書でほとんど用が足りるので、狭い団地住まいのせいもあり、大型の辞書はほとんど処分してしまったが、2冊目のWebsterだけは、大切に保存してある。
辞書の編纂にかけた先人達の彫心鏤骨の努力を忘れてはならないと思うからである。(M)