Archive for 5月 25th, 2012

センター試験のリスニングテストは、(1)受験者が聞かされる内容についてあらかじめ何も知らされていないこと、(2)機械的な音声だけが一方的に与えられるだけで受験者からの質問などは許されないこと、の二つの点において実際のコミュニケーション場面でのリスニング活動とは異なっています。そして第三に、聞くことの目的が通常のコミュニケーション活動とは違っています。例として今年のセンター試験問題からQuestion No. 22を取り上げます。その音声スクリプトと、印刷された設問・選択肢は次のようです。

  You have reached ISSC, the International Student Support Center. Our business hours are Monday through Friday, 8 am to 6 pm. Stay on the line for recorded help messages. Press one for dining services and assistance for students with special dietary needs, press two for dormitory or apartment rentals; press three for Internet and telephone connections; press four for library and bookstore locations. Students with questions about part-time work on campus should call to make an appointment to see our staff at the center. In the case of a medical emergency or illness, dial 911 or go directly to the clinic. Thank you for calling. 

[問22] Which request for assistance requires students to visit the ISSC? ① Finding places to live. ② Getting food and diet advice. ③ Looking for a temporary job. ④ Receiving health and medical care.

このスクリプトは自動電話案内と思われます。実際にISSC(国際学生サポートセンター)に電話をする人は、それがどんな所かを承知しているはずです。ISSCが何であるかも知らずに電話することは考えられません。たぶん、そこから何かの情報を得たくて電話をするはずです。たとえば、そのセンターでアルバイトの口を世話してもらえるかどうかを知りたいような場合です。そこで電話帳でISSCの電話番号をしらべ、電話をかけます。すると上記の自動案内が聞こえてくるというわけです。

 ところがテストでは状況が全く違っています。受験生はISSCについて何も知らさられていません。「次の英語を聞き、答えとして最も適切なものを四つの選択肢のうちら一つ選びなさい」という指示があるだけです。そしていきなり上記の自動案内の音声が聞こえてくるというわけです。別に配布されている問題用紙に設問と選択肢が印刷されていますが、受験者はたとえそれらをあらかじめ読むだけの時間的余裕があったとしても、そこから聞き取りのヒントが得られるとは思えません。多くの受験生はまず音声を1回聞き、それから設問と選択肢を見て捜すべき情報を知り、次に2回目の音声を注意深く聞いて答えを捜すことになるでしょう。この場合には最低2回は音声を聞くことが必要です。

 これに対して、センター試験のこの同じ問題を次のようにすることができます。電話案内の音声を聞かせる前に次のような指示を与えて受験者に聞く準備をさせるならば、もっと実際のコミュニケーション活動に近いものになり、音声も1回聞かせるだけで解答が可能になるでしょう(設問と選択肢も適切なものに書き変えます)。

<音声を聞かせる前の指示> これからお聞かせする音声は、ISSCすなわちthe International Student Support Centerの自動電話案内です。あなたは今そこに電話をかけて、アルバイトに関する情報を得たいと考えています。では始めます。

このような指示は親切すぎて、問題が易しくなりすぎると問題作成者は考えるかもしれません。たしかに問題は易しくなり、正答率は上がるでしょう。しかし実際のコミュニケーション場面では、聞き手ができるだけ戸惑わないように配慮するのが普通です。リスニングテストだという理由で、そのような配慮は無用だと言いきってよいでしょうか。Question No. 22 のようなリスニングテストでは、英文を聞いて理解する力よりも、むしろ記憶力や、ディスコースの状況を判断する力などの要素が大きく結果を左右します。

 そういうわけで、センター試験のリスニング問題には実際のコミュニケーション場面でのリスニング活動とは違っている面があるので、その結果から学習者のリスニング力を判断することは難しいと思われます。センター試験のテストは改善してもらう必要があります。そうでないと、受験者をいたづらに惑わせるテストになります。市販のリスニング教材には、筆者が指摘したような問題点に配慮したものが多数出版されていますので、学習者はそういうもので練習し、自己評価に役立てるようお薦めします。(この項目終り)