Archive for 8月 4th, 2012

(102)<英語との付き合い ○28>

① 英対話学習の方法論—原則 (承前)

 日本の国際化が進むにつれて、英対話、つまり、なんらかのtopicについて、外国人と英語で話し合うことが避けられない時代が来ると予測した我々は、そのような時代に対応する英語能力を身につける基盤として1.語彙の充実 2.背景知識の蓄積 が必須であると考えた。さらに、対話は相手の言うことを聴き取れなければ成り立たないから、listeningの力が必要になる。

1.語彙の充実

 英語でニュースを書いて何年か経つと、一定の語彙が身についてくる。その語彙はほぼ全員に共通のものになる。そこで我々は、その共通の語彙を洗い出し、それにいくつかの考慮を加えて、英対話のための基本語彙集を作成することにした。 この作業に参加したのは、平均20年程度の英文記者としての経験を持つ5人であった。私を除く4人には、それぞれ別々に過去3年間の出稿原稿の中から、基本用語であると考える語を数に制限なく選び出し一覧表にしてもらった。半年後に私のところへ上がってきた語彙は、全員がほぼ6千語であった。内容をチェックすると、ほぼ95%が重なっていた。

* 第一の考慮は、語数である。一般の成人学習者にとって、6千語は負担が重過ぎると考え、これを4千語に削減するよう要請し、この作業も別々にやってもらったが、提出された4000語はほぼ同一の語であった。
* 第二の考慮は、日本人が使う語彙と外国人が使う語彙の相違である。外国人と対話をする場合、相手が、必ずしも我々の用いる語彙の範囲内で話してくれるとは限らない。それは、外国人リライターと話していて気づいていたことだった。そこで、私は30周年の提案をする3年前から、BBC,VOA,ABC,ALL INDIA RADIO,RADIO BEIJINGなどの日本向けの英語の国際放送をモニターして、そのような語をリスト・アップしていた。
* 第三の考慮は、学習対象者が日本人の成人であるという点である。例えばVOAの”Simple English New “という番組では、1500語でニュースを放送していたが、この語彙の中には曜日の名称なども入っている。そこで、中学・高校の英語の教科書と、外国語の学習指導要領を調べて、成人対象の語彙集には不要と思われる語をピックアップした。
* 第四の考慮は、時代の変化である。言葉は時代とともに変化するが、特に、後述のようにニュースを教材の素材にする以上、時代の大きな変化(ex.冷戦の終結)に対応する必要がある。従って10年に一度程度の改定を視野に入れた。これまでの30年に3回改定し、約10%を入れ替えた。政権交代による自民党一党支配の終焉、東日本大震災と原発事故、アラブの春、リーマンショック以降の金融資本主義のゆらぎをうけて、現在4回目の改定作業中である。

2.背景知識の蓄積 

 前にこのブログに書いた英会話学校での体験やリライターとの対話のところでも触れたが、外国人との対話の際、対話の対象となるtopicについての知識を持っていれば、英語力ではnative speakerに劣っても、十分に対等の対話は成り立つ。職場を訪れた外国人と仕事の話は出来ても、“横メシ”は苦手だといの人が多いのは、背景知識のあるなしによる。このことは、how to speakとともに、what to speakが対話を成立させる重要な要素であることを物語る。
 ところで、言葉は事物と結びついて身についていくのだが、英語を日常的に使う環境にない場合、物と結びつけていくのは難しい。その点、対象が成人であれば、抽象的な理解度は出来上がっているので、事と結びつけることが出来る。それがニュースを教材の素材にする理由である。ニュースは森羅万象を取り扱うから、いろいろな問題についての背景知識を身につけることが出来うる。そのための基盤となる、政治、経済、社会、外交、貿易、安全保障の基礎知識を、英語を学びながら系統的に学ぶための教本を、4000語の基本語彙を用いて作成すれば、2つの原則は結びつくことになる。

3.LISTENINGの力の養成

 NHKの入社試験を受けた時のことである。最終日の英語の試験の最後にlisteningのテストがあった。5分間の英語ニュースを聞いて、内容を日本語で書いて出せということだったが、出題が終ると千人近くいた受験者は50人ほどに減ってしまった。90%以上がgive upしたのである。英文記者修行の最初に躓いたのもlisteningだった。それから25年経っても状況はほとんどかわっていないように思われた。当時、聞き取りはhearingと呼ばれ、listeningという言葉に市民権はなかった。しかし、対話は相手の言うことが聴き取れないのでは成立しない。従って英対話学習の基盤には、listeningの力の養成が不可欠であった。

このような方法論の原則に立って、具体的にどのような展開を図るかが次の課題となる。(M)